欧米で広く蔓延している家畜の抗酸菌感染症の原因菌
順天堂大学は9月16日、神経難病である多発性硬化症の発病に、家畜感染症の原因である「ヨーネ菌死菌」の経口摂取が、人種差をこえてリスクになると発表した。この研究は、同大学大学院医学研究科神経学講座の横山和正講師らと、伊Sassari大学、東都医療大学の百溪英一教授らの研究グループによるもの。研究成果は科学誌「Scientific reports」に発表された。
画像はリリースより
ヨーネ菌は欧米で広く蔓延している家畜の抗酸菌感染症の原因菌であり、牛・羊など反芻動物では、小腸を中心とした腸管の肥厚と腸管付属リンパ節の腫脹慢性下痢性の腸炎を起こす。ヒトはヨーネ菌の終宿主ではないため、慢性下痢症は起きないものの、感染家畜の肉や乳製品などに混在する死菌を介してヒトへの感作が起こる可能性が指摘されている。ヨーネ菌の家畜感染率が高い伊サルデーニャ島では、多発性硬化症患者の発生率が10万人あたり224人と非常に高く、近年の増加から、ヨーネ菌との関連が疑われていた。
感染因子混入物の排除で、国内の患者増加を食い止める可能性
多発性硬化症は自己免疫疾患で、脳、脊髄、視神経などに病変が起こり、多彩な神経症状の再発と寛解を繰り返す神経難病。日本の患者数は10万人あたり15人前後だが、40年間で20倍と急増している。そこで今回研究グループは、サルデーニャ島にあるSassari大学、国内獣医学者と共同で、ヨーネ菌と多発性硬化症の関連について調査した。
研究グループは、日本人の健常人50人、多発性硬化症患者50人、診断基準を満たさない多発性硬化症疑い患者12人、他の脳神経疾患患者30人を対象として、血清の感染因子とヨーネ菌の抗原(合成ペプチド)に対する液性免疫の反応を測定、統計解析を行った。その結果、ヨーネ菌の特定部分に対して反応するIgG抗体が、多発性硬化症に特徴的であり、サルデーニャの多発性硬化症患者と同様に高い頻度であることが判明したという。
今回の研究成果から、多発性硬化症の発病にヨーネ菌死菌の経口摂取がリスクとなっており、国内での患者数増加への影響が示唆された。ヨーネ菌において現在行われている防疫対策を徹底するだけでなく、感度の高い病原学的検査を獣医学者と共同で進めていくことで、国内の多発性硬化症の発症と患者数増加を食い止め、治療法の開発に道を拓く可能性があると、研究グループは期待を寄せている。
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