遺伝子学的手法を用いて網羅的に解析
東京医科歯科大学は8月17日、インプラント周囲炎と歯周炎の原因細菌叢に対し遺伝子学的手法を用いた網羅的な解析を行い、それぞれの疾患における特徴を明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野の和泉雄一教授、芝多佳彦大学院生、竹内康雄助教らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に8月8日付けで掲載されている。
画像はリリースより
歯科用インプラントは失われた歯を補う方法として急速に普及しているが、その後のメンテナンスに問題があるとインプラント周囲炎が起こる。インプラント治療を受けた患者の4割にこのインプラント周囲炎が認められるとの報告もある。病態は同じ口腔内の複合細菌感染症である歯周炎と類似している一方で、インプラント周囲炎は歯周炎と比較して疾患の進行が早く、治療が難しいとされている。
研究グループは、インプラント周囲炎と歯周炎の両疾患に罹患した成人12人を対象に、歯およびインプラント周囲からプラークを採取し、細菌RNAを抽出。その後、次世代シークエンサーを用いて得られた遺伝子情報を基に両疾患に関わる細菌種の同定と、その細菌叢の持つ機能(機能遺伝子・病原遺伝子)を解析した。
他の複合細菌感染症の病態解析にも応用可能
その結果、インプラント周囲炎と歯周炎でともに炭水化物やタンパク質の合成や分解に関連する遺伝子が多く発現しているなど、両疾患でその傾向が非常に似ていたものの、検出された細菌種の割合は異なっていた。各菌間の共起関係を基に細菌間相互作用を調べると、両疾患で認められる細菌ネットワーク網も異なることが明らかになった。細菌の病原遺伝子に着目し、両疾患の発現を比較すると、歯周炎とインプラント周囲炎では病原因子が類似しているものの、健康な歯の周囲に認められるプラーク細菌叢とは異なる病原組成であることがわかった。
これらから、インプラント周囲炎と歯周炎に関連する細菌叢は、バイオフィルムを維持するためにそこで行われていることは類似しており、これが臨床症状の類似性にもつながっていること、一方で活動性の高い細菌種は両疾患で異なるため、同じ治療を行ったとしてもインプラント周囲炎の細菌叢には与える影響が少なく、これが治療効果の差として現れる可能性が考えられるとしている。
今回の研究で、インプラント周囲炎に特徴的な細菌の群集構造が明らかになり、この知見から現行の治療法の見直し・新たな治療方略の確立が進むことが期待される。また、今回行われた網羅的な細菌遺伝子解析の手法は、他の複合細菌感染症の病態解析にも応用可能であり、この分野の研究が飛躍的に進むきっかけになると、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京医科歯科大学 プレスリリース