運動神経細胞の保護効果を示す生理活性物質「HGF」
東北大学は5月13日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者を対象とする肝細胞増殖因子(HGF)組換えタンパク質の第2相試験(医師主導治験)を実施すると発表した。この試験は、同大大学院医学系研究科神経内科学分野の青木正志教授(東北大学病院神経内科 科長)と、大阪大学大学院医学系研究科神経内科学の望月秀樹教授(大阪大学医学部附属病院神経内科・脳卒中科長)が共同で行うもの。
ALSは、主に運動神経の変性によって全身の筋肉にやせと筋力低下が進行し、やがては呼吸筋まひにいたる難治性の神経疾患。症状を改善するような治療法がないため、新しい治療法の開発が切望されている。HGFは、もともと肝細胞の増殖因子として発見された生理活性物質だが、運動神経細胞の保護効果を示す神経栄養因子としての作用も強い。近年、難治性神経疾患に対する治療薬としての臨床応用が期待されているため、青木教授を中心とする研究グループはこれまで、HGFを用いたALS治療法の開発に取り組んできていたという。
治験薬を2週間に1回の間隔で6か月間投与
今回の研究では、細胞を生きたまま観察するライブイメージング技術を用いることで、幅青木教授らは、慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授および整形外科学教室の中村雅也教授、旭川医科大学脳機能医工学研究センターの船越洋准教授らと協同して、組換えHGFタンパク質を医薬品化する創薬研究を実施。2011~2014年には、世界初の組換え HGFタンパク質の脊髄腔内投与による第1相試験を東北大学病院で実施した。その結果、安全性と薬物動態を15名の軽症ALS患者で確認。この成果を経て、今回はALSに対する HGFの有効性と安全性を確認するための第2相試験を計画したという。
計画では、東北大学病院、大阪大学医学部附属病院のそれぞれで24例ずつ、合計48 例のALS患者が参加予定。試験では、ALS患者の脊髄腔に治験薬を2 週間に1回の間隔で繰り返し投与する。治験薬は被験薬「KP-100IT」またはプラセボの2種類で、最初の6か月間はそれぞれの参加患者にどちらかの治験薬を投与。これにより、KP-100ITが投与された患者とプラセボが投与された患者の結果を比較し、KP-100ITの効果と安全性を評価するという。その後、投与の継続を希望する患者には全員にKP-100ITを同様に投与し、最長6か月間まで効果と安全性の評価を継続する。なお、治験で使用する治験薬は、ヒトのHGFを遺伝子組換え技術により製造・製剤化したもので、クリングルファーマ株式会社から提供される。
同治験の実施については、東北大学病院および大阪大学医学部附属病院の治験審査委員会(IRB)の承認を受けており、2016年4月28日には、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に東北大学病院で実施する治験計画届を提出。治験期間は2019年8月までを予定している。
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・東北大学 プレスリリース