炎症のメカニズム
東京大学大学院農学生命科学研究科の研究グループが肺炎の進展を阻止する新たな分子を発見したと発表した。
肺炎は細菌やウイルスに感染して肺が炎症を起こす疾患で、免疫機能が低下している高齢者や慢性疾患、呼吸器疾患の患者に発症しやすく治癒しにくい。治療には抗菌剤を処方するが副作用があり、炎症の悪化で肺水腫にいたるとさらに困難な状態となる。効率的に炎症を抑える新薬が待たれている。
炎症は侵入してきたウイルスや細菌を除去する反応で、障害を負った組織を治す生体防御反応でもある。生理活性物質が免疫反応を促進、抑制するが、そのバランスが崩れた時に炎症は過度になり、遷延化した時に肺炎が発症する。つまり炎症を制御する因子をみつけること、そのメカニズムを明らかにすることが治療につながる。
炎症に作用する分子
研究グループは、炎症が起こった時に生じるプロスタグランジンD2(PGD2)という物質が肺炎の進行に及ぼす影響を調べた。その結果、PGD2にはこれまでに知られている炎症促進作用の他に、炎症抑制作用があることを発見した。肺炎の初期には肺の血管内皮細胞や上皮細胞が生産するPGD2、後期には浸潤してくる免疫細胞が生産するPGD2が炎症抑制作用を発揮する。
PGD2は血管内皮細胞のDP受容体を刺激してその透過性を抑えることで、肺血管のバリア機能を強力にし、肺の炎症や浮腫の形成を抑えている。そこでDP受容体の作動薬をマウスに投与したところ炎症と致死率が改善した。PGD2シグナルの増強(DP受容体刺激)は肺炎治療の新たなターゲットになると考えられる。(馬野鈴草)
▼外部リンク
東京大学大学院農学生命科学研究科プレスリリース
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/