化合物センサーAHRが抗ウイルス因子応答を負に制御
北海道大学は4月19日、ダイオキシン類に対する化合物センサーとして知られている芳香族炭化水素受容体(aryl hydrocarbon receptor:AHR)が、内因性に感染前から活性されることで、さまざまなウイルス感染に対して誘導される抗ウイルス因子(インターフェロン)の応答を負に制御するという新しいブレーキ機構を見出したと発表した。
画像はリリースより
この研究は、同大学遺伝子病制御研究所の研究グループと、オスロ大学、トロント大学などとの共同研究によるもの。研究成果は、米免疫学雑誌「Nature Immunology」オンライン版に4月18日付けで公開されている。
ゴミ焼却などで発生するダイオキシン類の化合物は、ヒトの健康に大きな影響を与える毒性物質として知られ、発生異常やがん化を促進する作用、内分泌系や生殖器系の異常、そして免疫機能の低下が報告されている。これまでこの毒性発現のメカニズムについて多くの研究がなされてきたが、ゴミの焼却などで発生するダイオキシン類に対する生体内の化合物センサーであるAHRが、ウイルス感染時の自然免疫応答に及ぼす影響は、充分に研究されていなかった。
ウイルス感染に対する免疫応答の強化など治療への応用に期待
今回、研究グループは、定常時(ウイルス感染前)からAHRを介してシグナルを細胞内へ伝達することにより、さまざまな種類のウイルス感染時に抗ウイルス防御として誘導される抗ウイルス因子「I型インターフェロン」(IFN)の発現誘導のレベルを制御していることを見出した。さらにそのメカニズムは、キヌレニンなどのトリプトファン代謝物がAHRを介して発現誘導するTIPARPによって、IFN産生経路の中心的なTBK1というリン酸化酵素をADPリボシル化するという仕組みに基づいていることも判明したという。
この研究成果により、ウイルス感染による過剰なIFN応答を抑え、有害な応答を引き起こさないためのAHRによる新しいブレーキ機構が見出された。このブレーキ機構を制御することで、ウイルス感染に対する免疫応答の強化や、炎症性の病態の抑制を目指した治療への応用が期待されるという。また、同研究結果はこれまで報告されてきたダイオキシン類による免疫機能の低下について、その分子機構の一端を説明することにもつながると考えられると研究グループは述べている。
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