酵素MraYとその阻害剤ムライマイシンD2との複合体の結晶構造を解析
北海道大学は4月19日、酵素「MraY」とその阻害剤「ムライマイシンD2」との複合体の結晶構造解析を世界で初めて行い、MraYはムライマイシンD2と結合する際に非常に大きな構造変化を起こすことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究院の市川聡教授と、Duke大学のSeok-Yong Lee助教との共同研究によるもの。研究成果は英科学誌「ネイチャー」電子版に4月18日付けで掲載されている。
画像はリリースより
細菌の細胞壁ペプチドグリカンの生合成は、抗菌薬を開発する上で良いターゲットとして知られ、これまでペニシリンなどのβ-ラクタム系抗菌薬やバンコマイシン等が使用されてきた。しかし、現在ではこれらが効かない耐性菌の出現が深刻な問題となっており、薬剤開発が望まれている。
ペプチドグリカンの構成成分であるリピドIを合成する酵素「MraY」は、すべての細菌の生育に必須な酵素であることから、抗菌薬開発の新たなターゲットとして期待されている。また、放線菌の1種から単離された天然物ムライマイシン類は、このMraYを強力に阻害し、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)にも有効と考えられている。ムライマイシンによるMraYの阻害様式の解明は新しい抗菌薬開発を行う上で重要だが、どのようにMraYに結合して阻害しているのかのメカニズムは未解明だったという。
薬剤耐性菌に対する「最後の砦」の開発につながるか
今回、研究グループは、X線結晶解析に必要なムライマイシンD2(MRY D2)の完全化学合成を世界で初めて行った。その結果、好熱菌であるAquifex aeolicus由来のMraYと混合し、各種結晶化条件を検討することで複合体の結晶を得ることができたという。さらに、X線結晶構造解析にも成功した。
さらに各種変異体を用いた等温滴定型熱量測定実験によって、MraYとMRY D2の複合体形成に必要なアミノ残基も確認。基質が結合していない MraY(apoMraY)との比較検討から、MRY D2結合に合わせて MraYは非常に大きな構造変化を起こし、MRY D2のウラシル部位を認識するポケットが新たに生じることが判明したという。このポケットは、apoMraYでは散在していた4つのアミノ酸残基が寄り集まることで形成。それらすべてのアミノ酸残基がウラシル部位との相互作用に極めて重要だったという。これはapoMraYの構造だけでは全く予想できなかった現象であり、複合体の構造解析によって初めて明らかになったものとしている。
今回の研究によって明らかになった阻害様式について、研究グループは今後のMraY阻害剤設計に非常に重要な知見だとしている。また、薬剤耐性菌に対して有効な「最後の砦」の開発に繋がる重要な成果であると述べている。
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