嗜好品や医薬品として利用されてきた植物の二次代謝産物
神戸大学は3月22日、植物が薬理作用のある天然物をつくる過程での各物質の細胞レベルの分布を初めて明らかにしたと発表した。この成果は、同大学理学研究科の山本浩太郎研究生と三村徹郎教授ら研究グループと、産業技術総合研究所の高橋勝利博士、理化学研究所の升島努博士、千葉大学の山崎真巳博士、静岡県立大学水野初博士らによるもの。米科学雑誌「米国科学アカデミー紀要」(PNAS)電子版に3月21日付けで掲載されている。
画像はリリースより
植物は、昆虫や草食動物、病原体から身を守るため、多くの二次代謝産物を合成する。それらの物質の一部は、植物細胞の液胞に蓄えられ、動物に食べられた際に特定の作用を引き起こすことで外敵から身を守る仕組みとなっている。ニコチンやカフェイン、モルヒネなども植物の二次代謝産物であり、嗜好品や医薬品として人類に長く利用されてきた。
ニチニチソウを用いて各物質の組織内分布の分析、物質を測定
今回の研究では、ニチニチソウを使用した。ニチニチソウが合成する天然物「テルペノイドインドールアルカロイド」(TIA)は二次代謝産物のひとつで、抗がん剤としての薬理作用をもつ。ニチニチソウにおけるTIAの代謝は、中間代謝産物がさまざまな細胞を移動し、最後に異形細胞とよばれる細胞に蓄積されるが、その物質が細胞間をどのように移動するのか、各物質の合成や蓄積が細胞でどのように制御されているのかは、解明されていなかった。
研究グループは、「質量顕微鏡」による各物質の組織内分布の分析。「単一細胞メタボローム解析」により各細胞が含む物質を測定した。その結果、一般的に表皮細胞で合成・蓄積されていると想定されていた物質が、全く別の異形細胞で多く蓄積されていることがわかったという。
この研究成果により、植物内での物質の合成、移動、分布を制御する未知のメカニズムが存在する可能性が示唆された。今後、ニチニチソウをはじめ有用な二次代謝物質の合成過程を詳細に解明することで、効率的な天然物の合成手法などの開発が期待される。
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