多発性硬化症や神経再生医療に光明
慶應義塾大学は3月2日、MRIを用いて脳脊髄の髄鞘の再生を可視化することに成功したと発表した。この研究は、同大医学部生理学教室の岡野栄之教授、整形外科学教室の中村雅也教授、内科学教室(神経)の鈴木則宏教授、放射線科学教室(診断科)の陣崎雅弘教授の合同研究チームによるもの。研究成果は「The Journal of Neuroscience」オンライン版に3月2日付けで掲載されている。
画像はリリースより
世界で約250万人、日本でも約2万人の患者がいるとされる多発性硬化症は、脳脊髄の正常な機能に欠かせない「髄鞘」が崩壊と再生を繰り返す疾病。日本では、難病法の指定疾患を受けている。主に20歳代から30歳代の若年女性に好発すると言われ、次第に歩行困難となり、平均寿命が約10年短くなることが知られている。根本的治療法は見つかっておらず、現在は治療薬で進行を抑えているのが現状だ。
多発性硬化症では、髄鞘の崩壊が生じると神経伝導が妨げられ、麻痺や感覚障害などの症状が出現し、髄鞘が再生すると症状は一般に消失するといわれる。近年の研究では、髄鞘の再生を促す治療薬の開発が進められている。その一方、これまで髄鞘の状態、特に再髄鞘化を可視化することは困難とされてきた。また、iPS細胞を用いた神経再生医療においても、髄鞘の再生が機能回復に重要だが、髄鞘再生を患者の負担なく可視化する方法は確立しておらず、神経再生医療実現化の妨げになっていたという。
「q-Space imaging法」を改良、再髄鞘化を容易に可視化
今回、同研究チームは、近年開発されたものの患者負担が大きすぎるため臨床応用が難しかった撮影法「q-Space imaging(QSI)法」を改良し、新たなMRI撮影法「ミエリンマップ法」を開発。この方法によって髄鞘が正しく可視化されていることをさまざまな実験動物で証明し、さらに、慶大学病院をはじめ多くの病院に設置されている MRI(3テスラ(3T)装置)を用いて、約10分間で撮影可能であることを確認したという。
また、倫理委員会の審査承認を得て、慶大学病院に通院中の多発性硬化症患者の協力を仰ぎ、同方法による MRI 撮影を行ったところ、髄鞘の挙動を正しく可視化できることを確認。特に、これまでの MRI では確認できなかった再髄鞘化が容易に可視化でき、多発性硬化症の症状と相関していることが確認されたという。
この方法は、MRIを用いて約10分程度の短時間で撮影可能なため、患者への負担は極めて低い。今後、多発性硬化症などの神経難病の診療や、脊髄損傷に対する神経再生医療の実現化に大きく寄与するものと期待される。
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・慶應義塾大学 プレスリリース