一部の感染者で白血病や慢性炎症性疾患を引き起こすHTLV-1
熊本大学は3月1日、成人T細胞白血病の原因ウイルスであるヒト白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1, HTLV-1)の持続感染における新たなメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院先導機構・国際先端医学研究機構・エイズ学研究センターの佐藤賢文准教授、英国・インペリアル大学Charles RM Bangham教授、熊本大学発生医学研究所中尾光善教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学雑誌「米国科学アカデミー紀要 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」オンライン版に現地東部時間の2月29日付けで掲載されている。
HTLV-1は、母子感染するレトロウイルスで、数千年前からヒトと共存してきたウイルス。感染者の大部分は、病気を起こさない無症候性感染者だが、一部の感染者で白血病や慢性炎症性疾患を引き起こす病原性を持つ事が知られている。日本では、九州沖縄地方を中心に約100万の感染者が存在する。
レトロウイルス感染の特徴は、ヒトが元々持っているDNAに外からのウイルスDNAが組み込まれて一体化し、簡単には見分けが付かなくなることにある。そのため、ヒトのDNAに組み込まれたウイルスDNAは、ヒトの免疫や抗レトロウイルス薬から逃れる事が出来るようになり、感染者体内からのウイルス排除を目指した治療の障壁となっている。
難治性白血病の予防、分子標的治療に向けて
今回の研究では、細胞由来のタンパク質「CTCF」がヒトのDNAと一体化したHTLV-1のウイルスDNAに直接結合し、持続感染を促進するようにウイルスDNAの働き方を調節している事が明らかになった。CTCFには、ヒトのDNAを立体的に折りたたんで多くの遺伝子の働き方を決める機能があり、人間の生命活動に欠かせないタンパク質であることが知られている。つまりHTLV-1は、宿主であるヒトの免疫監視機構から逃れる手段として、ヒトのDNAと一体化するだけでなく、細胞が持つ「DNAを折りたたむ仕組み」をも利用することで、感染者体内で巧妙に生き延びていると考えられるという。
今回の研究は、そのHTLV-1の持続潜伏感染の重要なメカニズムを明らかにするものであり、今後更なる研究の進展によって、現在難治性白血病である成人T細胞白血病の予防や分子標的治療に繋がる成果である、と研究グループは述べている。
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