遠隔操作密封小線源治療、子宮頸がんや舌がんの治療で活用
産業技術総合研究所は2月9日、がん治療のひとつである遠隔操作密封小線源治療(RALS)を行う際の照射量を正確に評価するために必要な「ガンマ線基準空気カーマ率」の国内のトレーサビリティー(校正の繰り返しにより国の標準へたどれることが確かめられた状態)を確立したと発表した。この研究は、産総研分析計測標準研究部門放射線標準研究グループの黒澤忠弘主任研究員、齋藤則生研究グループ長兼同研究部門副研究部門長が、日本アイソトープ協会と共同で行ったもの。
画像はリリースより
近年、放射性物質イリジウム192(Ir-192)密封小線源を患部に挿入してがん組織に照射するがん治療(RALS)が広く行われている。機能温存に優れた治療で患者への負担も小さいことから、特に子宮頸がんや舌がんの治療法のひとつとして活用されている。
線源は、直径2mm、長さ5mm程度のカプセルの中に充填。線源の強さは約2か月半で半分に減衰するため、1年に2~4回程度新しいものに交換されるが、線源交換時はもちろん、日々の線量評価が必要。ガンマ線基準空気カーマ率を基に照射時間や照射位置の治療計画を立てるため、線量の不確かさが治療時の線量、ひいては治療の成果に影響を及ぼす可能性がある。
国家標準にトレーサブルな線量計普及で、高精度な線量測定可能に
線源の線量評価は、通常、井戸形電離箱を用いて行われる。しかし、これまでは井戸形電離箱の校正は国外の標準に頼らざるを得ず、海外へ線量計を輸送するコストや時間(約2か月)がかかることが大きな問題となっていた。また、国内では、メーカーによる不確かさの大きい性能試験が行われているのみであった。これらの問題を解決するために、国家標準につながるトレーサビリティー体系を構築することが求められていた。
今回の技術は、ガンマ線の量の国家標準であるグラファイト壁空洞電離箱を利用し、Ir-192に対応した補正係数を厳密に算出することによって開発に至った。このガンマ線基準空気カーマ率に対してアイソトープ協会が所有する放射線測定器である井戸形電離箱の校正を行い、アイソトープ協会ではこれを基準に個々の病院が保有する線量計の校正業務を開始する予定。
国内で迅速に線量計を校正できることから、海外に校正を依頼する場合に比べて線量計の校正に必要な期間を大幅に短縮でき、品質管理の空白期間を最小限にできる。また、費用の面でも安価になることから、国家標準にトレーサブルな線量計が広く普及し、高精度な線量測定が行えることで、より品質の高い放射線治療に向けた照射データの定量性向上が期待できる。
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・産業技術総合研究所 研究成果