従来の緩慢凍結法と比較して、凍結融解後の細胞生存率向上
慶應義塾大学は1月25日、ヒトiPS細胞由来の神経幹細胞の安全かつ効率的な凍結保存技術を開発し、従来の緩慢凍結法と比較して、凍結融解後の細胞生存率を向上させることに成功したと発表した。研究成果は、同大学医学部生理学教室(岡野栄之教授)と同整形外科学教室(中村雅也教授)が、株式会社アビー、日本ユニシス株式会社との共同研究により得たもの。「Neuroscience Research」オンライン版に1月22日付けで公開されている。
画像はリリースより
患者自身の細胞からiPS細胞を樹立し、現行の培養法で神経幹細胞へ誘導して移植する自家移植では、脊髄損傷に対する最適な細胞移植時期に細胞の生成が間に合わない。そこで研究チームは、京都大学iPS細胞研究所のiPS細胞バンク構想に基づいた他家移植を計画。これを実現するためには、iPS細胞バンクから譲渡を受けたiPS細胞を神経幹細胞へ誘導し、凍結保存しておく必要があり、細胞生存率の高い保存方法が求められていた。
しかし、従来の緩慢凍結法では凍結融解後の細胞生存率は低く、臨床応用の障壁となっていた。そこで、研究では、磁場下プログラムフリーザー(Cells Alive System:CAS)を用いて、ヒトiPS細胞由来の神経幹細胞の最適な凍結保存法と、凍結融解が細胞に与える影響を検討したとしている。
増殖能、分化能、遺伝子発現にも大きな影響なし
研究結果によると、CASを用いて、ヒトiPS細胞由来の神経幹細胞を凍結保存すると、従来の緩慢凍結法と比べ、融解直後の細胞生存率が著明に向上。CASの磁場を0.22~0.29mT、0.30~0.40mT、0.37~0.50mTの各条件で比較検討すると、0.22~0.29mT、0.30~0.40mTの磁場下で凍結させた場合、従来の緩慢凍結法での生存率(約34%)と比べて、凍結融解後の細胞生存率は著明に向上し、最も高い生存率は約70%だった。
また、CASを用いた凍結保存後、融解したヒトiPS細胞由来の神経幹細胞は、従来の緩慢凍結法で凍結した場合と比較し、ニューロスフェア径も保たれており、細胞増殖能や分化能も凍結前と同等であり、凍結融解の与える影響も少ないと考えられた。さらに、凍結融解したヒトiPS細胞由来の神経幹細胞は、遺伝子発現解析でも凍結前と同等であり、凍結融解が遺伝子発現に与える影響も少ないと考えられた。
研究により新たに開発したCASによるヒトiPS細胞由来の神経幹細胞の凍結保存法は、融解後の細胞生存率を向上させ、増殖能、分化能、遺伝子発現にも大きな影響を与えなかったことから、ヒトiPS細胞由来神経幹細胞の凍結保存およびバンク化に極めて有用であると考えられる。この成果によって、脊髄損傷に対する細胞移植による再生医療の臨床応用が大きく前進することが期待される。
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・慶應義塾大学 プレスリリース