科学技術の究極の目標のひとつ
東京工業大学は1月21日、熱平衡状態から大きく離れた系の化学反応をコンピューター制御できる「人工細胞型微小リアクター」の開発に世界で初めて成功したと発表した。研究成果は、英国科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」オンライン版にて、英国時間の1月20日付けで公開された。
画像はリリースより
この研究は、同大学大学院総合理工学研究科の瀧ノ上正浩准教授らによるもので、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)の「細胞機能の構成的な理解と制御」研究領域における研究課題「非平衡人工細胞モデルの時空間ダイナミクス定量解析」の支援により行われた。
細胞は分子の自己組織化や自発的な分子反応によって機能を発揮する超精密で超高機能なシステム。このような細胞システムの原理を解読し、それらの機能を取り入れた人工システムは、人間の知的社会生活を豊かにするとともに、エネルギーを効率よく利用するデバイスの開発や持続可能なシステム構築のために重要であり、科学技術の究極の目標のひとつといえる。しかし、細胞のように微小なスケールで、このような化学反応を制御することは難しく、制御するための新しい理論や技術の開発が望まれていた。
高機能な分子コンピューターや分子ロボットの開発に期待
研究グループは、細胞が膜小胞によって化学物質を取り込んだり排出したりする現象に着目して制御理論を構築。この制御理論に基づき、マイクロ流路技術を利用して微小な水滴を電気的に融合・分裂させ、微小水滴の内外への化学物質の供給と排出を制御する微小な化学反応容器(人工細胞型微小リアクター)を開発した。さらに、このリアクターを利用し、熱平衡状態から大きく離れた化学反応に特徴的なリズム反応(化学物質濃度が増減して規則的なリズムを刻む反応)を自在に制御することに成功したとしている。
今回開発したリアクターは、「生命とは何か?」という根源的な問いを解決する手助けになるとともに、将来は細胞を模倣した高機能な分子コンピューターや分子ロボットの開発、細胞状態のコンピューター制御に基づくモデル駆動型の生命科学・医薬研究分野への応用などが期待される。
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・東京工業大学 プレスリリース