社会生活に支障きたす神経発達障害
京都大学は1月21日、音声チック症状を呈する霊長類モデルを開発し、トゥレット障害の発症メカニズムを解明する研究結果を発表した。この研究は、放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター分子神経イメージング研究プログラムの永井裕司研究員、韓国脳科学研究所のケビン・マックケアン代表研究者、同大学霊長類研究所などの共同研究チームによるもの。研究成果は、米国神経科学専門誌「Neuron」オンライン版に同日付けで掲載された。
画像はリリースより
トゥレット障害は、咳払いや奇声などを発してしまう「音声チック」症状と、まばたきや顔しかめなどの動きを繰り返し行ってしまう「運動チック」症状が、ともに1年以上にわたって継続する神経発達障害で、18歳未満に0.1~1%の割合で発症するといわれている。特に音声チックは、症状による肉体的・精神的苦痛に加え、しばしば周囲の誤解を招くことで社会生活に影響することがあるが、有効な治療法は現在も確立されていない。治療法の開発には、音声チックを呈するモデル動物の開発と、症状をもたらす脳のメカニズムの解明が急務だった。
トゥレット障害の発症メカニズム理解に基づく治療法開発に可能性
共同研究チームは、側坐核と呼ばれる脳部位の活動を興奮状態にすることにより音声チックを再現できるモデルザルの作出に世界で初めて成功。このモデルザルの脳活動をPETで調べたところ、発声に関わることが知られている前部帯状皮質という部位で脳活動が過剰に亢進していることを見出したという。
さらに、側坐核、前部帯状皮質および発声運動に関わる一次運動野(特に口腔顔面領域)の各部位の神経活動を電位測定により調べたところ、これらの部位の神経活動が同期することによって音声チックの症状が発現するという脳のメカニズムを確認。このメカニズムをターゲットにした音声チックの治療法の開発につながることが期待されるとしている。
治療法としては、例えば、側坐核に対する脳深部刺激療法による神経活動の同期現象を抑えるような外科的処置が候補として挙げられる。埋め込み電極による脳深部刺激療法はパーキンソン病の治療などですでに確立されており、同様の装置を用いた側坐核への電気刺激が音声チックの治療に結びつく可能性が考えられるとしている。
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・京都大学 プレスリリース