睡眠不足時に扁桃体が過剰反応する
国立精神・神経医療研究センターの研究グループが、睡眠不足で不安・抑うつが生じやすい神経基盤を解明した。
現代人は夜型のライフスタイルや長時間労働などで慢性的な睡眠不足にある。睡眠不足が作業能力を低下させ、事故やヒューマンエラーの原因になることはよく知られている。近年は不安感や抑うつなどの情緒不安定を引き起こすことも指摘されているが、その神経メカニズムは不明だった。
同グループは短期間の睡眠不足を設定して睡眠構造、不安・抑うつの強さ、さまざまな感情を呈する表情写真を見た時の脳活動を検証した。成人男性14名に平均睡眠時間約4時間半を5日間(ウィークデイに相当)体験してもらった後、他人の幸せ表情(ポジティヴな情動)と恐怖表情(ネガティヴな情動)に反応する脳の活動を計測し、同一グループによる平均睡眠時間約8時間のセッションと比較した。
感情を伴う表情画像を見た時の脳活動を機能的磁気共鳴画像(fMRI)で測定したところ、恐怖表情で扁桃体の活動量が増大、幸福表情では変化がなかった。つまり情動と記憶を担う扁桃体がネガティヴな情動刺激に過剰反応し、通常ではこれを抑止する腹側前帯状皮質の機能が弱くなることがわかった。睡眠不足時に不快な情動刺激(感情ストレス)が扁桃体の活動が亢進して不安や抑うつが生じやすくなると考えられる。
睡眠不足が長期に及ぶ危険性
これまでの研究で社会不安障害、うつ病、統合失調症では扁桃体と腹側前帯状皮質の機能的結合が弱くなることが報告されているが、健康成人でも平日に相当するわずか5日間の睡眠不足で同様の状態になることが明らかになった。
短期間の睡眠不足が情動的な不安定や抑うつのリスクを増大させるなら、より長期間に及んだ場合にうつ病や不安障害の発症につながる危険性が想定される。(馬野鈴草)
▼外部リンク
国立精神・神経医療研究センター
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