さまざまな症状を引き起こす指定難病「クッシング病」
東北大学は1月4日、難治性内分泌疾患である「クッシング病」の新規治療薬として、レチノイン酸の受容体(RXR)に対する薬剤である「HX630」が有効である可能性を見出す研究結果を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科・分子内分泌学分野の菅原明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に2015年12月29日付けで掲載されている。
画像はリリースより
クッシング病は、脳下垂体に発生した腫瘍が原因となってホルモンのバランスが崩れ、肥満、高血圧、糖尿病、骨粗しょう症、筋力低下、多毛、免疫力低下やうつ状態などを引き起こす。脳下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が過剰になることから、副腎皮質からステロイドホルモンが過剰産生され、さまざまな症状を引き起こす。未治療の状態では、心・血管病変や感染症により命にかかわる場合があるとして、国の指定難病とされている。
治療の第一選択肢としては、下垂体腫瘍を外科的に摘出するとされているが、手術をしても症状が改善しない場合や術後の再発、病変部位によっては手術不可能な場合がある。そのような難治患者に対しては薬物療法が必要となるが、現状では下垂体腫瘍をターゲットとした有効な薬剤が存在していないことから、根治は難しいとされていた。
HX630投与群、対照群と比較して腫瘍の増殖を優位に抑制
研究グループは以前から、ホルモン核内受容体であるRXRが下垂体ACTH産生細胞やヒトのクッシング病組織で発現していることを見出しており、今回、RXR活性化剤であるHX630がクッシング病の治療薬となる可能性を検討。試験管内の実験において、マウス下垂体由来のACTH産生細胞であるAtT20細胞にHX630を添加したところ、同細胞からのACTH分泌が抑制されることが見出されたという。
このメカニズムとして、HX630がACTHの前駆体であるプロオピオメラノコルチン(POMC)の遺伝子発現を、転写因子Nur77・Nurr1を介して抑制していることが判明。さらに、HX630がAtT20細胞に対して増殖抑制作用・アポトーシス促進作用も有することも認められたという。
そこで、免疫系が阻害されているため腫瘍の移植に拒絶反応を示さないヌードマウスに、AtT20細胞を移植してACTH産生腫瘍を形成した後にHX630を投与したところ、HX630投与群では対照群と比較して有意に腫瘍の増殖が抑制されていた。
これらの結果から、HX630は難治性クッシング病の新規治療薬となる可能性が示された。今後、研究のさらなる進展が期待される。
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