がん幹細胞の探索、性状解析を目的に研究
北海道大学は12月8日、滑膜肉腫のがん幹細胞の同定に初めて成功したと発表した。この研究は、同大学大学院医学研究科腫瘍病理学分野(田中伸哉教授)の研究室で木村太一特任助教が中心となって行われたもの。研究結果は英国の専門誌「Oncogene」に12月7日付けで公表されている。
画像はリリースより
滑膜肉腫は若年成人の腕や脚の関節に発症しやすい悪性腫瘍。手術による切除が行われるが、再発や転移をきたした場合、現状では有効な治療法が存在せず病状の改善が困難なことから、新たな治療法の開発が望まれている。
近年、様々な悪性腫瘍において腫瘍中に少数存在するがん幹細胞が発見され注目を集めている。がん幹細胞は腫瘍を形成する能力が高く、抗がん剤や放射線治療が効きづらいという特徴を有することから、悪性腫瘍の進行、浸潤、転移の主体を担う存在であると推定され、がん幹細胞を標的とした新たな治療法の確立が世界的に進められている。そこで研究グループは、滑膜肉腫中のがん幹細胞の探索とその性状解析を目的として研究を行ったという。
CXCR4が滑膜肉腫幹細胞マーカーであることを発見
研究グループは、滑膜肉腫細胞株を幹細胞のみが生存し得る培地で培養し、通常培養した群に比べて発現が上昇する遺伝子を網羅的に同定。さらに、データベース検索を用いてがん幹細胞に関連のある遺伝子を絞り込んだところ、ケモカイン受容体であるCXCR4が候補としてピックアップされた。セルソーターを用いてCXCR4陽性細胞、陰性細胞をそれぞれ分取し、CXCR4陽性細胞ががん幹細胞としての特質である自己複製能、多分化能を有するかどうかの検証を実施。また、免疫染色を用いて、39症例の滑膜肉腫におけるCXCR4の発現と生存期間との関係を統計学的手法により解析したという。
その結果、免疫不全マウスへの腫瘍の移植実験により、滑膜肉腫中のCXCR4陽性細胞は陰性細胞に比べて腫瘍を形成する能力が約25倍高いことが判明。さらに、CXCR4陽性細胞は自己複製能および多分化能を有することから、CXCR4が滑膜肉腫幹細胞のマーカーであるとの結論に達したという。また、CXCR4の阻害剤は滑膜肉腫の増殖を培養細胞レベルで抑制することや、CXCR4陽性の滑膜肉腫症例は、陰性症例に比べて生存期間が明らかに短いことから、CXCR4が滑膜肉腫幹細胞の性質に重要な働きをしている可能性が示唆された。
研究グループは、今後はCXCR4阻害剤が滑膜肉腫で実際にがん幹細胞治療薬として使用可能であるかどうかの検証を進めていきたいとしている。
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