長期投与時の心血管安全性で優越性が明らかに
10月27日に都内で開催された、日本ベーリンガーインゲルハイム・日本イーライリリー共催のプレスセミナーで、横浜市立大学大学院 医学研究科 分子内分泌・糖尿病内科学教授の寺内康夫氏が、先ごろ公表されたSGLT-2阻害薬「エンパグリフロジン」(製品名:ジャディアンス)の心血管安全性を評価した大規模臨床試験「EMPA-REG OUTCOME」に関して解説した。
横浜市立大学大学院 医学研究科
分子内分泌・糖尿病内科学教授 寺内康夫先生
寺内氏は、複合プライマリーエンドポイントだった心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の発現までの期間(3Point- MACE)で、プラセボ群と比較しエンパグリフロジン群が非劣性だけでなく優越性が明らかになったことについて、「これまで細小血管症や大血管症などの合併症の頻度を減らすことはできても、患者の死亡は減らすことができないという糖尿病治療の常識を覆す結果だった」と評した。
その一方で、「欧米ではこの結果を受けてSGLT-2阻害薬の立ち位置は変わってくるかもしれないが、日本でこの結果を持って拙速に立ち位置を変える必要はない」との見解を表明。とりわけ日本人で発生頻度の多い脳梗塞発生頻度に対する懸念を今回の結果では「払しょくできたとはいいがたい」と指摘し、今後新たなデータの公表を待ちたいとの意向を示した。
日本を含む世界42か国のハイリスク2型糖尿病患者7,020例が対象
EMPA-REG OUTCOMEは、米FDAが新規糖尿病治療薬に課している長期投与時の心血管安全性を評価する目的で行われたもの。対象は、心筋梗塞や脳卒中の既往があり、標準治療を受けている、日本を含む世界42か国のハイリスク2型糖尿病患者7,020例。降圧薬、抗血小板薬、脂質異常症治療薬などといった標準治療を受けているこれらの症例に、無作為にエンパグリフロジン10mg/日投与(n=2345)、同25mg/日投与(n=2,342)、プラセボ投与群(n=2,333)を上乗せで割り付けした3群で評価を行った。追跡期間中央値は3.1年。
8月に発表された結果では、10mg/日投与と25mg/日投与を併合したエンパグリフロジン群で、プラセボ群と比較し、3Point-MACEのリスクを14%、心血管死のリスクを38%、全死亡のリスクを32%低下させたことが分かっている。ただ、プラセボ群とエンパグリフロジン10mg/日投与群、プラセボ群とエンパグリフロジン25mg/日投与群との間では3Point-MACEのリスクに有意差はなかった。また、エンパグリフロジン群とプラセボ群で有害事象発生頻度に差はなかった。
寺内氏は今回の差が生じた機序については、諸説あるものの現在不明と強調。さらに試験デザイン上、開始12週以降から血糖コントロール不良例に他の血糖降下薬の追加が可能である点について「現時点ではそうした併用薬の影響はあり得ると思うが、より詳細なエビデンスに基づいた判断が必要だろう」と指摘した。
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・日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 プレスリリース