内科的治療法が確立されていない大動脈瘤
筑波大学は10月21日、同大生命領域学際研究センターの柳沢裕美教授と山城義人助教が、上行大動脈瘤マウスモデルを作製し、タンパク質の発現を網羅的に調べるプロテオミクス解析と生化学的・組織学的手法を組み合わせて、大動脈瘤の形成に関与するシグナル伝達経路を特定することに成功したと発表した。
画像はリリースより
大動脈瘤は、大動脈壁が拡張する疾患だが、内科的治療法は未だ確立されておらず、破裂時の死亡率も非常に高いため、治療法開発への足がかりとなる分子を特定することは急務とされていた。
研究グループはこれまでに、マウスの血管平滑筋細胞におけるフィブリン4の欠損が上行大動脈瘤を引き起こすことを報告しており、病変部では動脈壁の肥厚、弾性線維の崩壊、血管平滑筋細胞の増殖、レニン-アンギオテンシン系のシグナルが局所的に増加していることを明らかにしていた。
スリングショット1−コフィリン経路の抑制で、大動脈瘤の発達も抑制
今回、同研究グループは、大動脈瘤の形成・拡大に関与する分子を特定する目的で、上行大動脈の病変形成前(生後1日目)から完成期(生後30日目)までの上行大動脈サンプルを収集し、タンパク質の発現解析を行い、野生型と比較した。
その結果、アクチン繊維の脱重合を促進するコフィリンと、その脱リン酸化酵素スリングショット1が、大動脈瘤の発達に伴って顕著に活性化しており、アクチン繊維の断裂が認められ、初期病変部では弾性線維と血管平滑筋細胞の結合が破綻し、血圧は正常であるにも関わらず、血管壁において機械刺激応答が亢進している事を発見したという。
さらに、以前報告したロサルタン投与による大動脈瘤の抑制効果は、今回特定したシグナル伝達経路(スリングショット1−コフィリン)の活性化抑制に繋がっていることも発見。PI3キナーゼ阻害剤によりスリングショット1−コフィリン経路を抑制すると、大動脈瘤の発達が抑制されることも明らかになったという。
同研究成果は、大動脈瘤の新しい治療標的分子を世界に先駆けて特定したもとなり、今後、新しい治療法の開発や創薬ターゲットとなることが期待される。なお、この研究成果は米科学誌「Science Signaling」に10月20日で先行公開された。
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・筑波大学 プレスリリース