硫化水素からも生成されるトリサルファイドが3MSTによって生合成
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は10月7日、同神経研究所の木村英雄神経薬理研究部長らのグループが、脳内でトリサルファイド(H2S3)が、3-メルカプトピルビン酸イオウ転移酵素(3MST)によって、3-メルカプトピルビン酸(3MP)から生合成されることを発見したと発表した。H2S3は、ニンニクの有効抽出成分であるジアリルトリサルファイド(DATS)やジメチルトリサルファイド(DMTS)と同様のトリサルファイド類。
画像はリリースより
研究グループは、脳内で硫化水素(H2S)よりS原子の数が多いポリサルファイドH2Sn(n=3,4)が脳神経細胞のひとつであるアストロサイトを活性化し、細胞内Ca2+流入亢進を行うことを2006年に世界に先駆け発表。2013年には、これが脳内に存在し、記憶や痛みの伝搬にかかわるTRPA1チャネル(カルシウムイオンチャネル)がその標的分子であることを引き続き報告していた。その後、ポリサルファイドが神経分化促進、抗高血圧、抗酸化ストレス制御、がん抑制因子も制御することが報告されていたが、H2Sn中のS原子の数や、生合成経路の有無、そしてその原料物質あるいは基質は不明だった。
抗不安薬や抗疼痛薬の開発進展にも期待
同研究グループは、ポリサルファイドH2Snが脳に存在することを2013年に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使って発見していたが、今回は、質量分析(LC/MS/MS)を駆使し、H2SnのS原子の数を決定。さらに、その合成酵素を明らかにした。
脳においては、H2S3とH2Sが主生産物で、少量ながらH2S2やH2S5も検出され、その生産酵素は、3MSTで、3MPから合成された。さらに、H2Snに選択性の高い蛍光プローブを使い、生合成されたH2S3が神経細胞の細胞質に局在することがわかったという。
中枢神経系では、H2S3の生産酵素である3MSTの欠損マウスが不安症状を示し、H2S3によって活性化されるTRPA1チャネル欠損マウスでは、抗不安作用が報告されている一方、末梢神経系においては、TRPA1チャネルは痛みを伝搬することが分かっている。これらのことから、同研究成果は抗不安薬や抗疼痛薬開発への進展が期待される。また、ニンニクの健康増進効果はH2S3を補うことによる効果である可能性も示唆された。
なお、同研究成果は、英オンライン科学雑誌「Scientific Reports」に10月6日付で掲載されている。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース