幻肢の運動ができないと幻肢痛が強くなることが明らかに
東京大学は9月10日、同大医学部属病院緩和ケア診療部の住谷昌彦准教授を中心とする研究グループが、切断によって失ったはずの手足を自分の意志で動かしているような感覚(幻肢の運動)の計測手法を開発、幻肢の運動ができないと幻肢の痛みが強いことを明らかにしたと発表した。
画像はリリースより
幻肢痛(神経障害性疼痛)は、手腕や足の切断後に失ったはずの手足が存在(幻肢)するように感じられ、その幻肢が痛むという現象。幻肢と幻肢痛は、手足の切断後だけでなく、神経傷害や脊髄損傷などによって手足の感覚と運動が麻痺した場合にも現れることがある。
幻肢痛は、さまざまな原因で起こる慢性疼痛の中でも最も重症度が高いことが知られているが、その治療法は十分ではない。幻肢痛が発症するメカニズムとして、脳に存在する身体(手足)の地図が書き換わってしまうことが報告されていたが、このような身体の地図の書き換わりを引き起こす要因については明らかにされておらず、発症メカニズムに基づいた治療法の開発が待たれている。
神経障害性疼痛疾患の治療法開発目指す
研究グループは、健康な手と幻肢を同時に動かす両手協調運動課題(Bimanual circle-line coordination task; BCT)という手法を用いて、幻肢の運動を計測し、幻肢の運動と幻肢痛との関係を調査。その結果、幻肢を運動できるほど幻肢痛が弱く、幻肢を運動できないと幻肢痛が強いことを見出し、幻肢痛の発症には幻肢の随意運動の発現が直接的に関連していることを明らかにした。
BCTは、幻肢の運動を定量的に評価することのできる手法で、健康な手で直線を描くのと同時に幻肢で円を描くと、健康な手で描く直線が円形に歪むという現象を利用したもの。健康な手で描く直線の歪みが大きければ大きいほど、幻肢で円を描く運動が行われていることを意味する。
同研究成果は、新たな幻肢痛の指標として治療開発への貢献が期待できる。さらに同研究グループは、バーチャルリアリティ(仮想現実)を用いた新しい幻肢痛の治療開発の臨床研究を開始しており、今後の成果は、幻肢痛や脊髄損傷後疼痛等の神経障害性疼痛疾患の治療にも貢献するものと期待される。
なお、同研究成果は神経科学分野専門誌「Neuroscience Letters」オンライン版8月10日付で掲載されている。
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