上達後も繰り返し練習することで運動スキルを保持する能力も高く
広島大学は9月10日、同大大学院総合科学研究科の船瀬広三教授らの研究グループが、非侵襲的脳刺激法である経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いたヒトの研究において、誤差修正が必要な視覚追従動作課題による運動スキル習得後の練習回数(後期学習段階)が、大脳皮質運動野興奮性と運動学習保持能力に強く関わっていることを明らかにしたと発表した。この研究成果は、7月17日発行の科学誌「Brain Stimulation」(オンライン版)に公開されている。
画像はリリースより
未経験かつ未修得の運動スキル学習において、反復練習が効果的であることは経験的に知られている。骨格筋への運動指令を発する大脳皮質運動野は、随意収縮力の制御や随意動作パターンの符号化などに重要な役割を果たしていることが知られているが、運動スキル学習やその保持にいかなる機能を担っているかは十分に解明されていない。
そこで今回の研究では、画面上に表示されたターゲットラインを足関節動作角度によって追従する動作課題を用いて、運動スキル学習を定量的に分析。運動スキル学習の学習段階およびその保持と大脳皮質運動野の興奮性変化の相互関連性について調べたという。
運動スキルの学習能力の背景にある脳内メカニズムの解明に寄与
同研究グループは、31人の健常成人を被験者として、視覚追従動作課題におけるターゲットラインと足関節動作角度を示す移動ポイント軌跡との差分(誤差)と、大脳皮質運動野へのTMSによって足関節動作の主働筋である前脛骨筋から記録される運動誘発電位(MEP)の振幅変化との関連性を調査。その結果、誤差修正を繰り返すことで修得される運動スキル学習能力が高い者ほど、大脳皮質運動野興奮性が増大することが判明した。
また、スキルが上達した直後とさらにそこから練習を反復した後に大脳皮質運動野の興奮性を評価したところ、上達直後では興奮性の増大は見られず、上達後の反復回数に応じて興奮性が増大することを明らかにしたという。以上から、新たな運動スキルの学習においては、練習によって得られた動作パターン、その動作パターンを生み出す大脳皮質運動野ニューロンの活動パターンの繰り返しによって、活動頻度に依存した可塑性が誘引されることを示した。
さらに、可塑性がより強く誘引された者ほど翌日になっても学習効果が残存していることが明らかとなり、学習した運動スキルの保持に大脳皮質運動野が深く関与していることが示されたという。
今回の成果を基に、今後さらに運動スキル学習に関わる脳機能の解明を進めていくことで、運動を苦手とする子供たちへの学習指導や教材開発、既に運動スキルを修得した熟練者に対する効果的なトレーニング法の提供が期待できるとしている。
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