卵子や精子の前駆細胞となるヒト始原生殖細胞様細胞を効率よく誘導
京都大学は7月17日、医学研究科の斎藤通紀教授(兼物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)主任研究者、iPS細胞研究所研究員)、佐々木恒太郎特定研究員、iPS細胞研究所の横林しほり特定拠点助教らのグループが、ヒトiPS細胞から卵子や精子の前駆細胞となるヒト始原生殖細胞様細胞を効率よく誘導する方法論の開発に成功したことを発表した。
画像はリリースより
研究グループはこれまでに、マウスを用いた精子や卵子の起源となる始原生殖細胞(Primordial Germ Cells: PGCs)の発生機構を研究してきた。今回、マウスES細胞やマウスiPS細胞などの多能性幹細胞から、サイトカインを用いて、エピブラスト様細胞(Epiblast-like cells: EpiLCs)、さらには始原生殖細胞様細胞(PGC-like cells: PGCLCs)を誘導することに成功。この始原生殖細胞様細胞からは精子や卵子を分化誘導可能であり、さらにそれらを用いて子孫を得ることもできたという。
ヒト生殖細胞の発生機構解明に大きく前進
今回の研究では、iPS細胞を用いて始原生殖細胞を誘導する培養条件を検討。その結果、iPS細胞をサイトカイン等で処理することにより、まず、初期中胚葉様細胞(incipient mesoderm-like cells: iMeLCs)に誘導。さらにマウス始原生殖細胞の場合と同様の方法で処理するという、マウスとは異なる細胞状態を経由させることで、ヒト始原生殖細胞様細胞(human PGCLCs: hPGCLCs)が効率よく誘導されることが明らかとなった。
さらに、あらかじめゲノム編集をiPS細胞に用いなくても、2種類の細胞表面マーカーで生きた細胞を標識することで、ヒトiPS細胞から誘導したヒト始原生殖細胞様細胞を高い純度で単離できることも証明。これにより、原則的には、どのiPS細胞からもヒト始原生殖細胞様細胞を誘導・単離することが可能になったという。
この成果によって、ヒト生殖細胞発生メカニズム解明の基盤が形成され、これまで非常に困難であったヒト生殖細胞の発生機構の解明が大きく前進すると期待される。ヒト始原生殖細胞からヒト精子やヒト卵子の誘導が可能となれば、ヒトの遺伝情報継承機構の解明が進むのみならず、不妊症や遺伝病の発症機序解明に役立つ可能性にも期待が寄せられる。
なお、同成果は米科学誌「Cell Stem Cell」オンライン速報版に、7月16日付で公開されている。
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