認知行動療法の作用メカニズムを解明
千葉大学は3月17日、認知課題を遂行した被験者の信念の変化が、課題を遂行中の脳の左後頭頂皮質における一過性の活動と相関する ことを発見したと発表した。
画像はプレスリリースより
この研究は、同大大学院医学研究院 認知行動生理学の須藤千尋助教、子どものこころの発達研究センター長の清水栄司教授らと、放射線医学総合研究所重粒子医科学センター応用診断研究チームの小畠隆行チームリーダーらの共同研究グループによるもの。この研究成果は、オンライン総合科学雑誌「Scientific Reports」に、同日付で掲載されている。
ソクラテス式質問法を与え、脳活動をfMRIで画像化
認知行動療法は、患者と治療者の対話により、患者の持つ不合理な信念を、柔軟で適応的なものに変化させ、症状の改善を目指す精神療法。うつ病や不安症、強迫症に対して高い有効性が示されているが、この認知行動療法が脳にどのような効果を与えるのかは不明であり、その作用メカニズムの解明が求められていた。
研究グループは、22名の健常被験者に対して、fMRIによる脳活動の観察中に認知行動療法を模して開発した認知課題を実施。それにより、認知行動療法の治療メカニズムの直接的な解明を行った。
認知課題は、スクリーンに指示文や図を提示する形で提示。まず「トイレの後は手を洗わなければいけない」という多くの人が持つ信念をテーマとして与え、「それは本当のことですか」「そう信じている理由を考えてください」「否定する根拠を考えてください」「どのくらい確信していますか」の4種類の質問を繰り返し与える「ソクラテス式質問法」に基づいて開発された。このうち4つめの主観的な確信度を問う質問のみ、手元のボタンを操作して数値で回答できるようにしたという。
左後頭頂皮質の活動が確信度の変動幅と正に相関
この確信度について合計25回質問し、回答が徐々に変化していく様子を観察した結果、信念の確信度は、質問を繰り返し受けるうちに有意に低下。また、左後頭頂皮質の活動が確信度の変動幅と正に相関することが明らかになり、この脳領域が強く活動した人ほど、信念が変化しやすかったことが示唆されたという。
この研究により、信念の変化しやすさの個人差、つまり心理療法の治療効果の個人差について、治療中の一過性の脳活動の関与が示唆されることが分かった。
研究グループは、今回の研究成果について、画像検査を用いて精神療法の効果を治療前に予測する技術や、治療法の選択といった研究分野につながることや、脳局所刺激法による、精神療法の効果を補助的に修飾するような治療技術の開発研究への発展にも期待が寄せられるとしている。
▼外部リンク
・千葉大学 プレスリリース