HTLV-1感染症の病態解明に期待
京都大学は2月5日、同大ウイルス研究所の松岡雅雄教授、安永純一朗講師らと霊長類研究所の研究グループが、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)が、成熟Tリンパ球を標的とする理由を解明することに成功したと発表した。この研究成果は、米国科学アカデミー紀要「PNAS」に米国時間2月2日付で掲載されている。
画像はリリースより
HTLV-1は、CD4陽性Tリンパ球の悪性腫瘍である成人T細胞白血病(ATL)や難治性進行性神経疾患であるHTLV-1関連脊髄症(HAM)の原因となるレトロウイルス。日本には現在、約108万人のHTLV-1感染者が存在すると推定されており、全世界では約1000~2000万人の感染者が存在すると考えられている。
これまで、HTLV-1は主に末梢の成熟したCD4陽性Tリンパ球に感染していることが知られていたが、胸腺などに存在する未成熟なTリンパ球における感染の程度やウイルスの指向性を規定するメカニズムは不明だった。
胸腺ではウイルス感染が著明に抑制されていることが判明
そこで研究グループは、HTLV-1感染細胞株、HTLV-1感染者由来T細胞を用いた解析を行い、感染細胞では宿主の転写因子であるTCF-1とLEF-1の発現が著減していることを見出した。これらの転写因子はHTLV-1の複製に必須のウイルス蛋白Taxと結合し、その機能を阻害。もともとこれらの転写因子は胸腺における未熟Tリンパ球に高発現し、末梢の成熟Tリンパ球では発現が低下していることが知られており、この阻害活性によりHTLV-1は未熟Tリンパ球ではなく成熟Tリンパ球を感染の標的としていることが示されたという。さらにTaxがTCF-1とLEF-1の転写を抑制することが判明し、よりいっそう感染の維持に最適な環境を誘導していると考えられた。
また、ニホンザルはHTLV-1の近縁ウイルスであるSTLV-1に高頻度で自然感染しており、その感染細胞はHTLV-1とよく似た動態を示すことが知られている。そこで今回は、STLV-1感染ニホンザルの胸腺、末梢血中における感染細胞の割合も解析。胸腺中の特に未熟なTリンパ球には感染細胞が少なく、TCF-1/LEF-1の発現と負に相関することを見出だしたという。これらの結果は、HTLV-1が末梢血Tリンパ球を標的とし、最終的に発がんに導く分子基盤を明らかにするものだ。
研究グループは今後、HTLV-1がいかにして感染細胞の増殖を促し、発がんへ導くのか、その分子機構を明らかにしていきたいと述べている。
▼外部リンク
・京都大学 研究成果