創薬などに不可欠なテロメレースに関わる分子経路の解明
鳥取大学は2月4日、同大大学院医学系研究科遺伝子機能工学部門の久郷裕之教授のグループが、がん化の不死可能に関係しているがん抑制遺伝子を制御する因子としてマイクロ RNA-19b(miR-19b)の同定に成功したと発表した。この研究成果は、英オンライン科学誌「Scientific Reports」に2月3日付けで掲載されている。
画像はプレスリリースより
遺伝子の集合体である染色体の末端には、染色体を保護しているテロメアという部分がある。正常な細胞は分裂のたびに短くなり、やがて細胞は老化し死滅するが、がん細胞の多くは、テロメレースという酵素が活性化されてしまうためにテロメアの短縮が防がれ、結果的にがん細胞が増え続ける原因になっていると考えられている。
このような現象は、がんに認められる形質として知られ、久郷教授のグループでは、染色体工学技術を利用して、このがん形質を抑制する遺伝子(PITX1)を発見していた。しかし、このがん抑制遺伝子がどのように調節されているのかなど、未解明な部分が多かったという。また、がんを治すための創薬や早期診断薬などの開発には、このテロメレースに関わる分子経路の解明が不可欠と考えられていた。
マイクロRNAが、複雑ながん発生メカニズムを解き明かす鍵に
細胞には、長さが18~24塩基程度のマイクロRNA(miRNA)分子が存在しているが、このRNA分子が遺伝子発現の調節を通して、がんを含むさまざまな病気に重要な影響を及ぼしていることが近年明らかになっていた。
今回の研究で同研究グループは、がん抑制遺伝子PITX1の発現を調節している分子として、このmiR-19bが働いていることを明らかにした。細胞内でmiR-19bを過剰に発現させた際に、PITX1のタンパクレベルの低下によるテロメレースの活性化と細胞の増殖能の亢進が認められたという。また、PITX1の特定塩基配列を直接標的として、miR-19bの発現を抑制していることを見出した。
さらに、悪性黒色腫では、miR-19bの発現亢進とPITX1の発現低下が認められたという。また、悪性黒色腫細胞株におけるmiR-19bの発現消失解析では、PITX1の発現上昇に伴ったテロメレース活性および細胞増殖能の低下を確認。これらの結果から、マイクロRNAががん抑制遺伝子の調節を通して、テロメレース活性を制御する分子経路が判明した。
今後この研究成果が、ES細胞、iPS細胞など幹細胞の維持機構、細胞の老化および不死化、複雑ながん発生の秘密を解き明かす鍵になると期待されている。
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・鳥取大学 ニュースリリース