人工関節手術の96%を占める下肢荷重関節の置換術
バイオメット・ジャパン合同会社は10月10日、プレスセミナー「高齢化社会における膝関節症治療~日本人の生活様式と膝関節~」を開催。高齢化に伴い増加する変形性膝関節症の現状や治療法、日本人特有の生活様式による膝関節への負担などについて、阪和第二泉北病院 阪和人工関節センター長の格谷義徳先生が講演した。
阪和第二泉北病院
阪和人工関節センター長 格谷義徳先生
日本人では、人工膝関節術を受けるのは、9割が女性であり、平均年齢はおよそ75歳。その変形が強い状態で手術に臨むが多いことから、ひどくなるまで我慢してから手術に踏み切る患者が多いことが考えられる。
2012年に国内で行われた人工関節手術の58%は膝関節、38%は股関節と、下肢荷重関節だけで96%を占め、さらに増加するとみられている。また、日本と米国における1万人あたりの手術件数では、膝関節で約5.5倍(5.4人対23.3人)、股関節で約3.5倍(3.4人:10.8人)とまだまだ差はあるが、今後この差は縮まるとみられている。
残された課題は日本独特の生活様式「正座」
人工関節の進化は著しく、2011年の時点で、変形性膝関節症の再置換術を受ける患者は、10年以内で5%、20年以内であっても10%とその耐久年数は着実に向上している。しかし、人工股関節と比較すると、除痛効果・満足度がやや劣る傾向にあり、また置換したとしてもスポーツなど激しい運動や関節に負担がかかる動きがすべてできるようになるわけでないなどの課題もある。特に日本独特の生活様式として、正座位(深屈曲)ができるようになるかが、人工膝関節にとって、残された難題のひとつである。
正常膝の深屈曲についてはほとんど解析が行われていなかったことから、格谷センター長らは、Open Chamber MRIによる深屈曲の調査を行った。その結果、深屈曲の屈曲確度は162±4°であり、大腿骨外側顆の後方へ亜脱臼を起こした状態になっていることが判明。大きな回旋(脛骨内旋)も伴っており、いわば「車輪がスピンして脱輪しそうな状態」になっているという。現・中之島いわき病院人工関節センター長の近藤誠先生らが行った研究では、411例の人工膝関節のうち、116例(約30%)が130°以上の深屈曲が可能であり、11例(約10%)に脱臼(1例)・破損(2例)・膝前面痛(8例)の合併症が見られた。「これまでの人工関節では正座をすると脱臼や破損の恐れがあったということです」(格谷先生)
日本人に適した人工関節は深屈曲できるような、良く曲がる・深く曲がることを念頭に置いたデザイン、ということになる。これに当たるのが、可動域が広いと実証されているPS(Posterior-Stabilized)型や耐摩耗性と生理的運動の両立が図れるモバイルベアリング機構を備える人工膝関節である。この要件を持つ人工関節として、バイオメットは2006年から「Vanguard RP」を販売しているが、現在はその改良型の「Vanguard RP2」を開発中であるという。
格谷先生「膝だけが原因で歩けなくなるということはない」
患者がより良い膝を手に入れるには、人工関節の進化と同様にその手術器具の発展も欠かせない。格谷先生は「何を入れるかよりもどう入れるかが大事。膝の専門家だけでなく、一般の医師が手術をすることも増えているので『誰でも・安全に・再現性のある手術』を行えるようにならなくてはなりません。そのために良い手術器具を作って普及させることも重要」とし、専用手術器具「Proflex-G」の開発にも携わった知見から「神の手のいらない手術が一番良い手術」と語った。
「良い手術とは、凡人にはできない難しい手術というイメージがありますが、現実の医療を支えている我々は、大多数の平均的凡人です。いつもファインプレーばかりできるわけではありません」と格谷先生。「みんなが名医の手術を受けられるわけではありません。手術の平均レベルの向上、許容できないレベル手術の根絶が重要です。手術を論理的に考え、正しい意味でのマニュアル化、手術器具の開発を行い、そして教育することが大切です」とした。
また、人工関節術を考える患者に対して格谷先生は、「人工関節術は優れた治療法ではありますが、あくまでも最終手段。いろんな治療をしたにもかかわらず症状が進行して、万策尽きたら人工関節があると考えてください。膝だけが原因で歩けなくなるという心配はありません」と語り、人工関節術の役割とその優位性を説いた。(QLifePro編集部)
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