ADPKDは腎臓だけでなく、全身性の遺伝疾患
7月15日、「多発性嚢胞腎(PKD)の最新情報」(主催:大塚製薬株式会社)と題したセミナーが行われ、東原英二氏(杏林大学医学部 多発性嚢胞腎研究講座 特任教授)が、PKDの1つである常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の病態と最新の治療法について講演した。
杏林大学医学部 多発性嚢胞腎研究講座 特任教授
東原英二氏
ADPKDは腎臓に嚢胞が多数でき、腎臓が肥大するとともに、その働きが徐々に低下していく遺伝性の疾患。原因はPKD遺伝子(PKD1、PKD2)の異常であり、これらの遺伝子が作るタンパクに異常があるとPKDを発症する。70歳までに約半数が末期腎不全に至り、透析や腎移植が必要となるとされる。また、嚢胞は腎臓だけでなく肝臓にできることもあるほか、全身の血管にも異常が起こり、脳出血やくも膜下出血の頻度が高くなることがわかっている。日本における患者数は約3万人と推定されている。
ほとんどの症例において30~40代までは症状が無く、加齢に伴い両腎臓の嚢胞が増加するにつれて腹部が張り、増大した臓器の重みによる腰痛や背部痛、血尿などが出現する。また、肝臓嚢胞を伴うことも多く(60~80%)、その場合は腎臓・肝臓の肥大による消化管圧迫で食事の摂取が困難になったり、嘔気が起こることもあるという。
腎臓での合併症としては、嚢胞出血、感染症、尿路結石など、腎臓以外では、高血圧や肝嚢胞、脳動脈瘤がみられる。特に高血圧は、ADPKD患者の50~80%が合併しており、腎機能の低下が認められない時から出現するとされている。根本的な治療法は確立されておらず、腎機能の低下に伴い、人工透析や腎移植が必要となる。
期待される、世界初のADPKD治療薬
2014年3月24日に、世界初のADPKD治療薬として「トルバプタン(商品名:サムスカ)」が承認された。ADPKDの嚢胞は、抗利尿ホルモンであるバソプレシンがV2‐受容体に結合することで誘導・促進されるといわれている。トルバプタンは、バソプレシンのV2‐受容体への結合を阻害し、cAMPの上昇を抑制することで腎臓での嚢胞の増殖・増大を抑制するという。同剤の登場により、これまで治療薬のなかったADPKD患者の治療発展に寄与することが期待されている。
承認申請は国際共同臨床試験(TEMPO試験)の結果に基づき行われた。TEMPO試験は、ADPKDの患者1445名をトルバプタン投与群とプラセボ群に分け、約3年間にわたり実施された。その結果、トルバプタン群はプラセボ群と比較し、年間腎臓容積変化率を49%抑制し、腎機能低下のリスクを61%軽減した。トルバプタン群で認められた主な有害事項は、口渇、多尿、頻尿だった。
承認にあたり、同剤の服薬条件は、両側総腎容量750mL以上、腎容積増大速度が概ね5%/年以上であることとされている。専用のe‐Learningを受講した登録医のみが処方可能であり、また、患者は服薬を開始する際、適切な水分補給量や同薬について学ぶため入院が必要となる。
登壇した東原氏は、「ADPKDに対してようやく治療法が見えてきたが、トルバプタンを安全に使用できる医師が不足しており、患者にも十分に情報がいきわたっていない。ADPKDに対する社会的支援が望まれる」と締めくくった。(QLifePro編集部)