京大と東大 クッシング症候群の原因遺伝子変異を発見、メカニズム解明にも成功
京都大学は5月23日、同大大学院医学研究科 腫瘍生物学講座の小川誠司教授、東京大学大学院医学系研究科 外科学専攻の本間之夫教授らを中心とする共同研究チームが、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)非依存性クッシング症候群の半数以上で、PRKACA遺伝子の変異が生じていることを確認、同症候群の原因となる遺伝子変異として突き止めることに成功したと発表した。
この変異によって起きるメカニズムの解明にも成功しており、ACTH非依存性クッシング症候群の新たな診断方法や治療法の開発に寄与するとみられている。この研究結果は、「Science」電子版に米国東部時間の5月23日付で公開されている。
画像はプレスリリースより
PRKACA遺伝子に高率で変異
クッシング症候群では、副腎から持続的かつ過剰にコルチゾールが分泌され、糖尿病や高血圧、肥満、骨粗鬆症、うつなど多様な症状が現れる。このうち副腎腫瘍が脳下垂体からの制御に従わず、勝手にコルチゾールを産生してしまうものがACTH非依存性クッシング症候群だが、その発症原因はこれまで明らかになっていなかった。
研究チームは、ACTH非依存性クッシング症候群をきたした副腎腫瘍を対象に、エクソンの全塩基配列を解読、遺伝子変異を検索する解析を実施した。すると、8例中4例でPRKACA遺伝子の変異が検出されたという。PRKACA遺伝子は、プロテインキナーゼA(PKA)の触媒サブユニット(PRKACA)をコードしているもの。PKAは2つのPRKACAと2つの調節サブユニットからなり、PRKACAが活性化することで細胞の代謝調節などに関与している。
通常は不活性状態だが、ACTHの刺激で細胞内のサイクリックAMP(cAMP)濃度が上昇すると、活性化状態となりコルチゾール産生を促すといわれている。遺伝子変異解析の8例のうち1例では、cAMPの産生に関わる遺伝子GNAS遺伝子の変異も認められた。GNAS遺伝子の変異では、細胞内のcAMP濃度が持続的に上昇することが報告されている。
この発見から、研究チームはこれら2つの遺伝子に着目。さらに検証を進めるため57例を追加し、変異の有無を調べた。すると、合計65例中34例と全体の52%でPRKACA遺伝子の変異を、11例(17%)でGNAS遺伝子の変異がみられたそうだ。両者の変異がともに生じているケースはなく、重複がないため、cAMPとPKAを回する経路に異常が生じている例は、合計した45例(69%)になる。また研究チームによると、PRKACA遺伝子の変異は、206番目のロイシンに対応する塩基にのみ生じていたという。
遺伝子変異からコルチゾールの持続的産生が導かれるメカニズムの解明にも成功
さらに研究チームは、PRKACA遺伝子変異でどのようにしてコルチゾールが持続的に産生されるものとなるのか、そのメカニズムを解明すべく、変異のない野生型PRKACAタンパクと変異型PRKACAタンパクを用いて実験を行った。
その結果、野生型PRKACAでは調節サブユニットを加えると、結合してPRKACAの活性が下がり、さらにcAMPを加えると調節サブユニットが離れ、再びPRKACAが活性化することが確認された。ところが変異型PRKACAの場合では、調節サブユニットを加えても結合が起こらず、cAMPの有無に関わらずPRKACAの活性化状態が維持されたという。
このことから、ACTH非依存性クッシング症候群のうち半数以上の症例では、PRKACA遺伝子の変異により、調節サブユニットによるPRKACAの抑制が不可能となって、ACTHの刺激によるcAMPの濃度上昇がなくとも、持続的にコルチゾールの産生が促されることが判明したとしている。
今回の研究は、これまで不明だったACTH非依存性クッシング症候群の原因に関し、PRKACA遺伝子が高率に変異していることを見出し、その結果生じる機能的異常を明らかにして、副腎腫瘍からコルチゾールが持続的に産生されるメカニズムを解明した点で重要な意義をもつ。この成果は今後、ACTH非依存性クッシング症候群の診断・治療において活用されることが期待される。(紫音 裕)
▼外部リンク
京都大学/東京大学 プレスリリース
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/
Science : Recurrent somatic mutations underlie corticotropin-independent Cushing’s syndrome
http://www.sciencemag.org/content/344/6186/917