どのような要因がウイルス感染を自己免疫疾患の発症や増悪に導くのかは不明
大阪大学は1月6日、内在性ヒトヘルペスウイルス6B(HHV-6B)が全身性エリテマトーデス(SLE)の発症や疾患活動性に大きな影響を及ぼすことを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の佐々暢亜助教(遺伝統計学/耳鼻咽喉科・頭頸部外科学/理化学研究所生命医科学研究センター/東京大学大学院医学系研究科)、岡田随象教授(遺伝統計学/東京大学大学院医学系研究科/理化学研究所/WPI-IFReC)らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Genetics」にオンライン掲載されている。
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アネロウイルス感染は健常人の8%以上の血液の全ゲノムシーケンスデータから検出可能とされているが、無症候性であり臨床的意義は不明である。ヒトの約1%が保有する内在性HHV-6は遺伝性のHHV-6ゲノムがサブテロメア領域に組み込まれたもので、感染性ウイルスとして再活性化することができると提唱されている。内在性HHV-6はヒトの参照ゲノムに含まれていないため、抗ウイルス反応を引き起こす可能性のある、見過ごされてきた遺伝的要因だ。
ウイルス感染に対する過剰あるいは異常な免疫応答が、特定の自己免疫疾患と類似しているパターンがいくつか知られている。また、重症COVID-19でみられる「サイトカインストーム」と呼ばれる免疫原性応答は、ウイルス感染と自己免疫疾患の両者に起因している。しかし、内在性ウイルスを含むウイルスと自己免疫疾患の関係についての理解はいまだ不完全であり、上記のウイルスが自己免疫疾患と関連しているのか、どのような要因がウイルス感染を自己免疫疾患の発症や増悪に導くのかは不明だ。
内在性HHV-6BがSLEやPAPの遺伝的リスク因子であることを発見
研究グループは今回、5つの自己免疫疾患とCOVID-19および健常対照群の全ゲノムシーケンスデータを用いて内在性HHV-6を同定し、各疾患との統計的関連を調べた。さらに、ファージ免疫沈降シーケンス(PhIP-seq)やシングルセルRNAシーケンス(RNA-seq)を用いて、SLEにおける内在性HHV-6Bの有無による免疫応答の違いの解明を目指した。
その結果、内在性HHV-6B陽性例はSLEや肺胞蛋白症(PAP)で健常人に比べ多く、関連解析では既知の遺伝的・環境的要因より大きい効果量でSLEやPAP発症のリスクに寄与していることを発見した。
また、内在性HHV-6Bの有無とSLEの活動性の指標(SLEDAIスコア)の関連解析では、内在性HHV-6B陽性SLEのSLEDAIスコアは有意に高値であり、内在性HHV-6Bが疾患活動性に大きな影響を及ぼし得ることがわかった。
SLEで内在性HHV-6B陽性/陰性例で異なる免疫応答、発症/重症化に寄与の可能性
SLEの血漿または血清を用いたPhIP-seqでは、HHV-6AペプチドやHHV-6Bペプチドに対する抗体を認め、中には内在性HHV-6B陽性例に特異的な抗体を認めた。HHV-6Bゲノムをヒトゲノムの一部として保有している内在性HHV-6B保有者では、HHV-6Bペプチドに対する免疫応答は自己免疫性を示す可能性がある。SLEの末梢血単核細胞を用いたシングルセルRNA-seqを行い、内在性HHV-6Bの有無で抗ウイルス応答に関連するインターフェロン誘導遺伝子(ISG)スコアを比較したところ、内在性HHV-6B陽性例では単球系細胞においてISGスコアが有意に高いことを発見した。
これらの結果から、SLEにおいて内在性HHV-6B陽性例と陰性例では異なる免疫応答が認められ、発症や重症化に寄与する可能性が示唆された。
免疫関連疾患における内在性ウイルスやウイルス感染の重要性示唆
次に、全ゲノムシーケンスデータからアネロウイルス感染を定量化し、各疾患との関連を解析した。その結果、軽度のアネロウイルス感染や重度のアネロウイルス血症の割合はSLE、関節リウマチ、COVID-19で、健常群に比べ有意に高いことを発見。また、尋常性乾癬でもその傾向が認められた。さらにSLEでは、少しでもウイルスゲノムが認められるアネロウイルス陽性の割合は、免疫抑制剤やステロイドの使用で有意に高くなることを見出した。
内在性HHV-6やアネロウイルス感染を有する症例が全患者に占める割合は比較的少ないが、これらが陽性であることは疾患リスクや臨床的表現型に、これまでに同定された各疾患の遺伝・環境因子よりも顕著な影響を与えることがわかった。これらの結果は免疫関連疾患における内在性ウイルスやウイルス感染の重要性を示している。
免疫関連疾患の発症予防や層別化医療の質向上に貢献の可能性
今回の研究により、内在性HHV-6Bやアネロウイルス感染と自己免疫疾患などの免疫関連疾患の関連を明らかにし、SLEでは内在性HHV-6Bが異なる免疫応答を誘導し、疾患活動性に影響を及ぼすことを明らかにされた。
「これらのウイルスが新たな、そして臨床的に有用なバイオマーカーとなる可能性を示唆した。本研究成果は、将来的に免疫関連疾患の発症予防や層別化医療の質を高めることに貢献すると期待される」と、研究グループは述べている。
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