■薬局は小児用提供で苦慮
2024年12月以降のインフルエンザの急激な流行拡大で、抗インフルエンザウイルス薬の調達が厳しい中、小児科からの処方箋を多く応需する薬局からは「成人用とは異なり、小児用はタミフルドライシロップなどに限定されるため、代替薬の選択に苦労している」と悲鳴が出ている。抗インフルエンザウイルス薬の需要が供給量を大幅に上回る状態が続いており、汎用されているオセルタミビル塩酸塩は先発品である中外製薬の「タミフル」、後発品を販売している沢井製薬、東和薬品の製品も出荷制限状態にある。塩野義製薬の「ゾフルーザ錠」(一般名:バロキサビルマルボキシル)も9日から限定出荷を始めた。こうした状況下で厚生労働省は9日、医療機関・薬局、医薬品卸に適正な使用と発注を要請した。
厚労省が公表した2024年12月23~29日分のインフルエンザ発生状況によると、定点当たり報告数が64.39人と現在の集計方法となった1999年4月以降で最多となり、前週から約20人、昨年同期と比べて約3倍増加した。
都道府県別では、大分県104.84人、鹿児島県96.40人、佐賀県94.36人、熊本県92.56人の順で、九州地方で感染者数が多い傾向が見られた。インフルエンザによる入院患者数は5144人で、前週より2000人以上増加した。
こうした需要増に対応できず、抗インフルエンザウイルス薬を製造販売する企業が相次いで供給を一時停止する状況に追い込まれている。
オセルタミビルでは、沢井が8日、75mgカプセルと後発品で唯一のドライシロップ製剤(3%)の供給を一時停止すると医療関係者に伝えた。供給再開予定は、DS剤については今月下旬、カプセルは2月上旬となっている。
翌9日には、中外の先発品「タミフル」がカプセル剤、ドライシロップ剤共に出荷制限になった。カプセル(75mg)のPTP100カプセル包装は一時出荷停止し、2月下旬の供給再開を目指す。カプセル(同)のPTP10カプセル、ドライシロップ(3%)の30g瓶は限定出荷扱いにした。「タミフル」の出荷量は通常より10%以上増やしていたが、他社品の出荷制限の影響を受け、需要に十分に応えられなくなった格好だ。
10日には、東和も他社品の出荷制限の影響で75mg錠が限定出荷となった。
これらの余波は、塩野義の「ゾフルーザ」に及んだ。9日から錠剤の10mg、20mg共に限定出荷を開始した。出荷量は「タミフル」と同様に通常より10%以上増やしている。しかし、同社は「他社品の出荷制限でさらなる需要増加も想定されることから、今後の過剰な在庫を防ぎ、在庫の偏在を防ぐ目的で限定出荷にした」と説明している。通常出荷予定は未定。
抗インフルエンザ薬には吸入剤もあるが、第一三共の「イナビル吸入懸濁用160mgセット」「同吸入粉末剤20mg」(一般名:ラニナミビルオクタン酸エステル水和物)については10日現在、「供給に影響は出ていない」と同社は回答した。
同じく吸入剤で、グラクソ・スミスクライン(GSK)の「リレンザ」(一般名:ザナミビル水和物)も10日現在、出荷制限はしてない。同社は、「インフルエンザの急激な流行拡大、一部製品の供給制限でリレンザの需要は高まっている。今後、状況を注視しながら最善の対応を図っていく」と話している。
薬局からも苦悩する声が聞かれている。神奈川県相模原市内にあるオレンジ薬局では、小児科からの処方箋を多く応需している中、小児のインフルエンザ患者が増えている。
薬剤師の佐藤克哉氏は、「タミフルは沢井の件もあり入手が難しくなっている。小児患者の割合も高いため、リレンザなどの吸入剤の使用が難しく、タミフルドライシロップが多い状況だ。代替が少ないので、在庫があるもので調剤することの了承を得ながら行っている」と語った。
一方、埼玉県所沢市にある薬局の開設者は「在庫切れは起こしていないが、入荷は滞っている。インフルとコロナの抗原検査キットも全く入荷できずに年明けから全て断っている」と影響を語る。