シリコーンオイル充填後に原因不明の視力低下が起きる原因は不明だった
名古屋大学は12月27日、眼内充填剤であるシリコーンオイル(SO)が、網膜にフェロトーシスを引き起こすことを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科眼科学の清水英幸病院助教、同研究科生体反応病理学の豊國伸哉教授、同研究科環境労働衛生学の田﨑啓講師、浜松医科大学医学部眼科学講座の兼子裕規教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Free Radical Biology and Medicine」電子版に掲載されている。
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失明を引き起こす増殖糖尿病網膜症や網膜剥離などの手術の際、SOは眼内充填剤として幅広く使用されている。しかし、SO充填後に原因不明の視力低下(SORVL)が起きることが報告されており、その原因は明らかになっていない。
研究グループは以前、眼トキソプラズマ症の患者の硝子体液中の鉄濃度が低いことを発見し、眼トキソプラズマ症はフェロトーシスと関連していることを証明した。また、SO充填眼では著明に鉄の濃度が低下することを報告している。そこで今回、「SO充填眼では眼トキソプラズマ症と同様の現象が生じ、SOによりフェロトーシスが起き、二次的な変化として鉄の濃度が低下している」という仮説を立てた。
ヒトとウサギのSO充填眼で総鉄濃度が通常より低く、網膜内への鉄の取り込みが亢進
研究では、SO充填眼の患者とウサギの眼の硝子体腔中に溜まるシリコーンオイル下液の総鉄濃度を測定した。その結果、総鉄濃度が通常より低いことが判明。LA−ICP−MSという質量分析を行うことで、SO充填眼の患者およびウサギの網膜切片において、通常見られない網膜内への鉄の取り込みが亢進していることが明らかになった。
SO充填眼球モデルで網膜のヒト由来ミュラー細胞にフェロトーシスが生じることを確認
また、SOを充填したウサギの眼ではGPx4の発現低下、FeRhoNox-1シグナルの増加、鉄関連遺伝子の発現変化が認められた。特筆すべきは、フェロトーシスの標的がミュラー細胞だったことだ。
研究グループは、MIO-M1細胞(ヒトミュラー細胞株)を用いて、in vitro SO充填眼球モデルを作製。in vitroのSO充填眼モデルでは、GPx4の発現低下と細胞内鉄(II)の増加、フェロトーシスの亢進、フェロトーシス阻害剤であるフェロスタチン-1による細胞死の防止、鉄関連遺伝子の発現変化が認められた。
ミュラー細胞のフェロトーシスは「フェロスタチン-1」で予防可能
これらの結果は、SORVLの原因が網膜(ミュラー細胞)のフェロトーシスにあり、フェロスタチン-1によって予防できることを示している。
今回の研究により、SO充填眼とフェロトーシスの関連が世界で初めて示唆された。「今後、動物実験でSO充填の際にフェロトーシス阻害薬を同時に投与して網膜障害が抑制できることを証明し、SORVL阻害薬の開発につなげていきたいと考えている」と、研究グループは述べている。
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