高齢者にとって、「獲得」の高さは主観的幸福感と正の相関を示す
岡山大学は12月26日、生涯学習の多い高齢者は「獲得」のポジティブな意識が高く維持されること、また、身体活動の多い高齢者は「喪失」のネガティブな意識が低く維持されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院社会文化科学研究科の白石奈津栄大学院生と同大学術研究院社会文化科学学域の堀内孝教授の研究グループ、大阪大学中川威准教授、兵庫教育大学大学院山本康裕大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「心理学研究」に掲載されている。
近年の高齢者研究では、高齢者の加齢に係る変化に関する意識(主観的老い)が注目を集めている。主観的老いを測定する代表的な指標に、コロラド州立大学のManfred Diehl教授らが提唱した「加齢に係る変化意識AARC(Awareness of Age-Related Change)」がある。「加齢に係る変化意識」は、加齢に伴って「獲得(Gain)」するものが増えるというポジティブな意識と、加齢に伴って「喪失(Loss)」するものが増えるというネガティブな意識の2側面から構成される。先行研究によると、「獲得」の高さは主観的幸福感と正の相関を示し、「喪失」の高さは抑うつと正の相関、主観的幸福感や身体的健康と負の相関を示すことが明らかにされている。
研究グループの白石奈津栄大学院生と堀内孝教授はこれまでに、コロラド州立大学のAllyson Brother Associate Professorと共同研究を実施し、「加齢に係る変化意識」を簡便に測定する尺度(AARC10-SF尺度)の日本語版を開発した。同研究成果も、2024年12月の「心理学研究」に掲載されている。
加齢に係る変化意識に影響を与える要因として、生涯学習と身体活動に着目して分析
今回の研究では70歳以上の日本人878人を対象に、12か月間にわたる縦断調査を実施した。この調査では「加齢に係る変化意識」に影響を与える要因として、「生涯学習(どれくらい多くの学習を行っているか)」と「身体活動(買い物、料理、公共交通機関の利用などの日常的な活動の程度や運動を行っている程度)」に着目した。
生涯学習多の高齢者は獲得のポジティブ意識高、身体活動多は喪失のネガティブ意識低
マルチレベル分析の結果、生涯学習の多い高齢者は「獲得」のポジティブな意識が高く維持されること、また、身体活動の多い高齢者は「喪失」のネガティブな意識が低く維持されることが明らかとなった。この研究成果は、老年学および老年医学の分野で最も権威のある学会である「GSA(Gerontological Society of America)」の年次大会(GSA Annual Scientific Meeting)で発表され、その発表要旨はInnovation in Agingに掲載された。
生涯学習と身体活動が、前向きな主観的老いの体験を促進する可能性
今回の研究により、高齢者の生活の質を向上させるための重要な手がかりが提供された。生涯学習と身体活動は前向きな主観的老いの体験を促進し、健康的な老後を支援することができると考えられる。
「本研究が多くの高齢者の生活の質向上に寄与することを願っている。今後は、これらの知見を基にした具体的な介入プログラムの開発が期待される。また、生涯学習が盛んなドイツでのデータを活用し、国際的な視点から生涯学習の効果をさらに深く理解していきたいと考えている」と、研究グループは述べている。
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