抗炎症治療、過剰な炎症反応を抑えつつ免疫の有益な機能を保つ必要性を検証
京都大学は12月20日、糖尿病網膜症や加齢黄斑変性などの網膜疾患において、ある特定の自然免疫細胞は病的血管新生を増強させる一方で、別の自然免疫細胞は新生血管を排除する役割があること、またコルチコステロイドなどの広域スペクトル抗炎症薬の投与が病的血管新生を鈍化させる一方で、投与時期によっては網膜の内在性の血管修復メカニズムを損なう可能性があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院眼科の畑匡侑特定講師(研究当時:モントリオール大学博士研究員)、モントリオール大学のPrzemyslaw Sapieha教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PNAS」にオンライン掲載されている。
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糖尿病性網膜症や新生血管型加齢黄斑変性、未熟児網膜症などの網脈絡膜血管障害は、世界の失明原因の上位を占めている。これらの疾患では組織炎症を伴い、細胞傷害だけでなく組織リモデリングに関連していると考えられているが、その詳細は不明だった。
網膜の恒常性維持には、自然免疫の働きが重要である。糖尿病網膜症や加齢黄斑変性などの網膜疾患では、マイクログリアや単球などの自然免疫細胞が、病的な血管新生や損傷を受けた視細胞の除去などの破壊的プロセスのみならず修復的なプロセスの両方に関与している。この二重の役割を考慮すると、免疫の有益な機能を保ちながら、過剰な炎症反応を抑えるために、抗炎症治療の適切なタイミングが重要となるのではないかと研究グループは考えた。
網膜疾患治療で一般的に用いられるデキサメタゾン、組織再構築に与える影響を調査
コルチコステロイド、特にグルココルチコイドは、強力な免疫調整作用を持ち、眼疾患を含むさまざまな分野で使用されている。しかし、その幅広い効果のため、しばしば基礎疾患のメカニズムが明確でない場合に使用される。研究グループは、さまざまな網膜疾患の治療で一般的に用いられるデキサメタゾンが、網膜の組織再構築に与える影響について調査した。
網膜症マウス、病的血管新生の退縮期のデキサメタゾン投与で血管再構築の阻害を確認
まず、酸素誘導網膜症マウスモデルに対してデキサメタゾンを眼内投与することで、抗炎症作用が病的血管新生および血管リモデリングに与える影響を検討した。デキサメタゾンを病的血管新生の形成初期に投与すると新生血管の形成を抑制した。一方で、デキサメタゾンを病的血管新生の退縮期に投与すると、修復に必要な炎症反応を低下させ、特定の骨髄系細胞の働きを抑制することで、血管再構築を阻害することが確認された。
さらに、遺伝学的手法により、CX3CR1を発現するミクログリアが血管新生に関与すること、一方で、LysMを発現する骨髄系細胞は、損傷した血管や病的な新生血管の部位に集まり、網膜の血管構造の修復過程に関与していることがわかった。
持続的な新生血管が関わる病期での使用、さらなる検討が必要と示唆
網膜症の病的血管新生の増悪は自然免疫系によって誘導されるが、新生血管退縮期の炎症を抑制すると、有益な血管の再構築が損なわれる可能性があることを示唆している。「今後は、抗炎症薬の二面性に配慮し、特に持続的な新生血管が関わる病期での使用についてはさらなる検討がされるべきである」と、研究グループは述べている。
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