従来の運動能力評価ツール、保育現場での実用性に課題
名城大学は12月20日、幼児の運動能力を、特別な用具や広いスペースがなくても簡単に測定できる「Simple Motor Competence-check for Kids(略称:SMC-Kids、読み:エスエムシーキッズ)」を開発したと発表した。この研究は、同大農学部・大学院総合学術研究科の香村恵介准教授、仁愛大学人間生活学部の出村友寛准教授、中部学院大学短期大学部の小椋優作講師、琉球大学医学部・京都大学大学院医学研究科の喜屋武享准教授、愛知教育大学創造科学系の縄田亮太准教授、石巻専修大学人間学部の髙橋功祐助教、琉球大学教育学部の松浦稜講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Science and Medicine in Sport」に掲載されている。
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幼児期の運動能力は、身体の健康のみならず、認知能力や学習能力など、子どもの成長全体に大きな影響を与えることが知られている。そのため、幼児期における運動能力の発達を適切に把握し、支援することは非常に重要だ。しかし、従来の運動能力評価ツールは、専門的な知識や技術、特別な用具、広い測定スペースなどを必要とするものが多く、保育現場で手軽に実施することが難しいという課題がある。特に、保育現場では、限られた時間やスペースの中で、多くの子どもたちを対象に運動能力を評価する必要があるため、簡便で効率的な評価ツールの開発が求められていた。このような背景から、研究グループは、特別な準備を必要とせず、短時間で簡単に実施できる幼児向けの運動能力評価ツール「SMC-Kids」の開発に着手した。
特別な用具・広いスペース必要なし、屋内で安全に実施可能
今回の研究では、幼児36人を対象に、運動能力を簡便に測定できる「SMC-Kids」を開発。その妥当性と信頼性を検証した。SMC-Kidsは、10m先に置かれた2つの紙ボールを1つずつ運びながら往復して合計40mを走る「10m折り返し走」と、A4用紙5枚を布ガムテープで巻いて作った紙ボールの遠投距離を計測する「紙ボール投げ」の2項目で構成される。どちらも特別な用具や広いスペースを必要とせず、屋内で安全に実施可能である。
既存の運動能力評価ツールと比較で妥当性を確認
妥当性の検証として、既存の代表的な運動能力評価ツールであるTest of Gross Motor Development-3(TGMD-3)とSMC-Kidsを同じ幼児71人で測定し、関連を分析した。その結果、10m折り返し走はTGMD-3の移動技能総合得点(走る、ギャロップ、片足跳び、スキップ、両足跳び、サイドステップ)と中程度の相関を示し、紙ボール投げはTGMD-3のボール技能総合得点(バッティング、ラケット片手打ち、ボールつき、キャッチ、キック、オーバーハンドスロー、アンダーハンドスロー)と高い相関を示すことが明らかになった。このことから、SMC-Kidsが幼児の移動能力と操作能力を適切に評価できるツールであることが示された。
測定の信頼性「高」、高い再現性を確認
信頼性の検証では、異なる評価者間、および同一評価者による再評価において、SMC-Kidsの測定結果がどの程度一致するかを検証した。その結果、評価者間および評価者内において、非常に高い再現性が確認された。このことから、SMC-Kidsが安定した測定結果を得られる、信頼性の高いツールであることが示された。
これらの検証結果から、SMC-Kidsは、幼児の運動能力を簡便かつ正確に評価できる、実用性の高いツールであることが示された。
園や家庭での幼児の身体活動の促進効果も検証予定
今回開発したSMC-Kidsの活用を広げるため、現在、約2,000人分の測定データを収集し、幼児の運動能力を評価する基準値の作成を進めている。また、多忙な保育現場でも運動能力データの評価や管理、家庭へのフィードバックが簡単に行えるよう、Excelのマクロを活用したシステムの開発にも取り組んでいる。このシステムを通じて、園での取り組みを振り返ったり、家庭と情報を共有したりすることで、園や家庭における幼児の身体活動の促進効果を検証する予定だという。SMC-Kidsを活用したこれらの取り組みが、幼児の健全な発達と健康的な生活習慣の形成に貢献することを目指している、と研究グループは述べている。
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