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ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大

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2024年12月19日 AM09:30

ALS原因遺伝子産物TDP-43、オリゴデンドロサイト過剰発現のモデルマウスを作製

名古屋大学は12月11日、)の原因遺伝子産物であるTAR DNA結合タンパク質43()がグリア細胞の一種であるオリゴデンドロサイトにおいて過剰に発現すると、その機能異常を引き起こし、マウスの運動障害を惹起することを初めて発見したと発表した。この研究は、同大環境医学研究所病態神経科学分野の堀内麻衣研究員、渡邊征爾講師(共同筆頭著者)、山中宏二教授、発生・遺伝分野の荻朋男教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Acta Neuropathologica Communications」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ALSは、運動神経細胞に細胞死がおこる進行性の神経変性疾患。生存期間の中央値は約2~4年であり、根治的な治療法が存在しないことから、詳細な病態の解明とそれに基づいた新たな治療法の開発が強く望まれている。ALS患者の約97%にALSの原因遺伝子産物であるTAR DNA結合タンパク質43(TDP-43)の凝集体形成と異常蓄積が神経細胞およびオリゴデンドロサイトで確認されており、TDP-43の異常はALSの発症や病態進行に重要な役割を担うものと考えられる。

グリア細胞の一種であるオリゴデンドロサイトは、髄鞘を形成して神経伝達を促進し、また神経細胞に栄養を供給する役割を担っている。ALS患者では、オリゴデンドロサイトの機能異常や髄鞘の障害が報告されており、病態の進行に関与していると考えられるが、TDP-43がオリゴデンドロサイトに与える影響についてはこれまで詳しく解明されていなかった。

今回の研究では、遺伝性ALS患者由来の変異を導入したTDP-43をオリゴデンドロサイトに過剰発現するモデルマウスを作製した。

過剰量TDP-43、オリゴデンドロサイト機能異常や細胞死を引き起こす

モデルマウスの脊髄を観察したところ、オリゴデンドロサイトに特異的な変異型TDP-43の過剰発現を確認できた。このモデルマウスでは、加齢に伴い運動機能障害が出現し、細い棒の上を歩かせることで運動機能を測定するバランスビーム試験ではモデルマウスが異常な震えを伴って足を踏み外しながら歩行する姿が観察された。

運動機能障害の原因を明らかにするために、オリゴデンドロサイトに着目した解析を行った。髄鞘を青く染めるウェルケ染色では、モデルマウスの脳梁や脊髄で染色性が低下していることが判明し、髄鞘の減少が認められた。髄鞘が傷害された領域では、オリゴデンドロサイトがアポトーシスを起こしており、さらにアポトーシスを起こしたオリゴデンドロサイトが活性化ミクログリアにより貪食される像も観察された。

TDP-43過剰発現<オリゴデンドロサイト髄鞘形成破綻<アポトーシス<運動機能障害

さらに、TDP-43を過剰発現するオリゴデンドロサイトにおける遺伝子発現の異常を明らかにするため、RNAシークエンス解析を行った。その結果、このモデルマウスのオリゴデンドロサイトでは、髄鞘形成に必要なコレステロール制御に関連する遺伝子の発現が低下する一方、アポトーシスを誘導する遺伝子の発現が上昇していた。これらの結果は、TDP-43の過剰発現がオリゴデンドロサイトによる髄鞘形成を破綻させてアポトーシスを誘導し、運動機能障害につながることを示唆している。

オリゴデンドロサイト標的の治療法開発に期待

今回の研究により、TDP-43の過剰発現がオリゴデンドロサイトの機能低下や細胞死を引き起こし、マウスの運動機能障害を惹起することが明らかとなった。オリゴデンドロサイトがTDP-43の過剰発現に対して脆弱であることが初めて明らかとなり、オリゴデンドロサイトの機能低下がALSの病態において重要な役割を果たす可能性が示された。同モデルマウスは、ALSにおけるオリゴデンドロサイトの機能異常を解析するための有用なツールとなり、オリゴデンドロサイトを標的にした新たな治療法の開発につながることが期待される、と研究グループは述べている。

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