日本人・白人集団対象、アレルギー感作に関連する遺伝子を全ゲノム解析で探索
筑波大学は12月10日、日本人一般集団4万6,602人のゲノムデータを用い、個々人で異なる遺伝子領域(遺伝子多型)とその人の形質との関連を網羅的に解析する全ゲノム関連解析を実施、さらに2万5,032人の白人集団を対象に全ゲノム関連解析を実施して得られたデータと合わせて解析し、アレルギー感作に関連する遺伝子多型を同定したと発表した。この研究は、同大医学医療系遺伝医学の野口恵美子教授、東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター分子遺伝学研究部の廣田朝光准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Allergy and Clinical Immunoloty」に掲載されている。
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ヒトは毎日花粉、食物、家のホコリの中のダニなどさまざまな環境アレルゲン(抗原)にさらされている。一部のヒトの体内では、それらのアレルゲンを異物とみなしてしまう免疫機能が働く。その結果、免疫グロブリンE(IgE)という、アレルギーと関連する抗体が産生される。このように、ありふれた環境アレルゲンに特異的なIgE抗体が産生された状態をアレルギー感作という。アレルギー感作はアレルギー疾患の発症前に起こることが多く、アレルギー疾患のリスク評価や予防法の検討において重要な指標と考えられている。今回の研究では、日本人集団と白人集団を対象に、遺伝子多型情報を用いて全ゲノム関連解析を行い、アレルギー感作に関連する遺伝子を探索した。
6万人以上のデータから、新規4つ含むアレルギー感作関連遺伝子多型検出
今回の研究ではまず、筑波大学および東北メディカル・メガバンク機構が収集した日本人一般集団4万6,602人の遺伝子多型情報や疾患情報を用いて全ゲノム関連解析を実施した。その結果、18のアレルギー感作関連遺伝子多型が検出され、うち2つは過去に報告のない新規のものだった。また、白人集団2万5,032人を対象に全ゲノム関連解析した結果と日本人集団の結果をメタ解析し、23のアレルギー感作関連遺伝子多型を検出した。うちの4つは新規のものだった。
多感作については8つの遺伝子多型を同定
さらに、複数の異なるアレルゲンに対する感作である多感作についても、全ゲノム関連解析を行った。多感作については8つの遺伝子多型が明らかとなった。多感作は「複数の関連性のない(あるいは明らかに関連性のない)アレルゲン物質に対するIgE反応性」で、難治性のアレルギー疾患との関連が示唆されている。
今回の研究で明らかとなった疾患感受性遺伝子多型が遺伝子発現に与える影響をeQTL解析により調べたところ、多感作と関連する遺伝子多型の1つである11番染色体のrs61566046のリスクアレルであるTアレルはLRRC32遺伝子の発現低下と関連していることがわかった。LRRC32はglycoprotein A repetitions predominant(GARP)と呼ばれる糖タンパク質をコードしており、LRRC32の発現低下が制御性T細胞の機能に影響し、多感作が起こりやすくなると考えられた。
また、2番染色体の遺伝子多型rs3769684のリスクアレルであるTアレルは、CD4陽性T細胞におけるCD28の発現量の増加と関連していた。また、3番染色体の遺伝子多型rs6790260のリスクアレルであるGアレルはB細胞や樹状細胞においてLPP(LIM Domain Containing Preferred Translocation Partner In Lipoma)というタンパク質の発現量増加と関連していることがわかった。
アレルギー感作と喘息・アレルギー性鼻炎・花粉症に正の相関、アトピー性皮膚炎は相関なし
これらの遺伝子型解析情報を利用してLDSC(連鎖不平衡スコア回帰)解析を行ったところ、アレルギー感作と喘息、アレルギー性鼻炎、花粉症との間に強い正の遺伝的相関が認められた一方で、アトピー性皮膚炎との間にはそのような相関はみられなかった。アトピー性皮膚炎の病因については2つの仮説が提唱されている。1つは、一次的な免疫機能障害がIgE抗体産生を引き起こし、上皮バリア障害と局所的な皮膚炎症を引き起こすというものである。もう1つは、皮膚自体の機能障害がアトピー性皮膚炎の起源であり、免疫学的機能障害は二次的に起こるものであるというものである。今回の研究の結果は、後者の仮説を支持するものであり、「アレルギー感作の遺伝的素因の影響は、アトピー性皮膚炎発症において、喘息・アレルギー性鼻炎・花粉症と比べて少ない」ということを、遺伝子多型情報解析から明らかにした。
関連遺伝子領域の絞り込みに成功、アレルギー疾患予防や治療法開発への貢献に期待
今回の大規模統計学的解析により、アレルギー感作と特定の遺伝子領域に存在する遺伝子型の関係性がより明確になった。このことは、アレルギー疾患に関する分子メカニズムを理解するために重要な遺伝子領域の候補が狭まったことを意味する。「これらの遺伝子を研究することにより、新たなアレルギー疾患の分子基盤が明らかとなり、アレルギー疾患予防や治療法の開発に貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL