医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 1歳未満からの保育施設利用児、非利用児に比べ発達が良いと判明-東北大

1歳未満からの保育施設利用児、非利用児に比べ発達が良いと判明-東北大

読了時間:約 2分50秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2024年12月16日 AM09:00

」について国内大規模検証

東北大学は12月9日、保育施設の早期利用は子どもの発達を促進することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科発達環境医学分野の大学院生金森啓太医師、大田千晴教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

子どもの健康と環境に関する全国調査()は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするため、2010年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯などの生体試料を採取し、保存・分析するとともに追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしている。

エコチル調査は国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施している。

昨今、共働き世帯が増えていること、世界的に早期から家庭以外で教育やグループケアを行うことの利点が認識されてきていることから、世界全体で3歳未満の子どもの保育施設への通園が増加傾向にある。幼稚園や保育園に早期から通うことが子どもの認知機能、言語、運動、心理社会性などの発達に良い影響を与えることはこれまでにも報告されている。しかし、このテーマに関する先行研究のほとんどは、幼児教育・保育の長い歴史を持つ欧米諸国からのものであり、日本での大規模な調査はこれまで行われていなかった。さらに、かつて日本では、子どもは3歳までは、家庭で母親の手で育てないとその後の成長に悪影響を及ぼすという考えがあった(3歳児神話)。1998年の厚生白書で、この考えに合理的な根拠がないことは言及されているが、今でもこの考えが完全に払拭されているとは言えず、集団保育の早期利用が子どもの発達にどのような影響を与えるのかについて、現在でも議論が続いている。研究グループは、乳幼児を取り巻く環境は国や文化によって大きく異なるため、このテーマについて議論を深めるためには日本独自の大規模な調査を行うことが重要であると考えた。

1歳未満から保育施設利用の子は3歳時点で発達が良いと判明

研究は、エコチル調査に参加する約10万組の親子のうち保育施設の利用状況に関する質問項目への回答に欠損のない約4万人を対象とした。生後6か月~1歳の間で保育施設の利用を開始し、その後3歳まで継続して利用していた子どもを保育施設利用群(曝露群)、生後6か月~3歳まで保育施設を利用していない子どもを保育施設非利用群(対照群)とした。生後6か月~3歳までの間で保育施設の利用状況に一貫性がない場合(2歳から利用を開始した場合など)は除外した。

子どもの発達の評価尺度には「Ages and Stages Questionnaires(R)(ASQ)-3」を使用した。ASQ-3は生後1か月~5歳半までの小児の発達の遅れを見つけるために作られたスコアツールだ。内容はコミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決能力、個人社会スキルの5つの領域に分けた、30項目の質問で構成されている。例えば、「上手に走り、何かにぶつかったり転んだりせずに止まりますか」などの質問に対して、保護者の方が回答し、回答に応じて点数が付けられ、それぞれの領域での合計点が算出される。ASQ-3にはカットオフ値が設定されており、今回の研究では主な評価項を「3歳時点でASQ-3がカットオフ値を下回る」(すなわち発達の遅れが示唆される)子どもの割合とし、曝露群と対照群の2つの群を比較した。

保育施設利用群と保育施設非利用群は、それぞれ1万3,674人と2万6,220人だった。生後6か月の時点では2つの群の発達に差はなかった。3歳時点ではコミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決能力、個人社会スキルの全てにおいて、保育施設利用群でASQ-3がカットオフ値を下回る割合が有意に少ない結果だった。

特に発達が良いのはコミュニケーション、問題解決能力、個人社会スキルなど

カットオフ値を下回る割合は、保育施設利用 vs 保育施設非利用群で、:2.1% vs 5.7%、粗大運動:3.8% vs 5.0%、微細運動:7.0% vs 8.4%、問題解決能力:5.6% vs 8.9%、個人社会スキル:1.7% vs 5.1%だった(全ての領域で p<0.001と統計学的に有意な差があった)。また、ASQ-3スコアの合計点の推移を比較したところ、特に2つの群の差はコミュニケーションと個人社会スキルにおいて目立った。

早期の保育施設利用のネガティブな印象が払拭されることに期待

今回の研究により、早期の保育施設利用に対するポジティブな効果が示され、科学的な根拠に欠けるネガティブな印象を払拭することが期待される。さらに、子どもに多くの他者との交流や多様な経験を提供することの重要性を強調し、子どもの発達を促進するために望ましい社会を形成していくことにつながると考えられる。

一方で、今回の研究は3歳時点の発達を比較したに過ぎず、3歳以降の発達や、発達以外の母子関係やその子の心理的安定などを評価したものではなく、一概に保育施設での子育てが家庭での子育てに優れるということを結論付けるものではない。

「本研究で早期の保育施設利用に対するポジティブな効果が示されたことで、科学的な根拠に欠けるネガティブな印象が払拭されることが期待される。保育施設と家庭での子育ての双方にそれぞれメリットがあるのは言うまでもなく、今回の結果が保育施設を利用しない家庭での子育てを否定するものではない」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 従来よりも増殖が良好なCAR-T細胞開発、治療効果増強に期待-名大ほか
  • 小細胞肺がんを遺伝子変化に基づき5群に分類、個別化医療推進に期待-国がん
  • アトピー性皮膚炎、喘息や花粉症よりアレルギー感作の遺伝的影響「少」-筑波大ほか
  • シニア向けマンション居住者のフレイル予防、サークル参加も寄与-都長寿研ほか
  • 日本人女性の妊娠期における座位行動の大規模実態調査、初の結果公表-富山大