がん細胞が産生し悪性化を促進するTGF-β、転移経路となる血管に対する役割は?
東京薬科大学は12月5日、がん細胞の転移を抑える新しい方法を発見したと発表した。この研究は、同大生命科学部幹細胞制御学研究室の花田賀子氏(大学院博士課程3年・日本学術振興会特別研究員DC2)と伊東史子准教授、昭和薬科大学の研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。
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がん治療において「転移」は難しい課題の一つであり、患者の生命予後を大きく左右する大きな課題である。特に、がん細胞が血液の流れに乗って別の臓器へ広がる「血行性転移」は多くのがん患者にとって深刻な問題となっている。この転移の過程では、がん細胞が転移先臓器に到達すると血管内皮細胞に接着し、その場所で増殖して転移巣を形成する。
今回研究グループが注目したのは、タンパク質TGF-βだ。TGF-βはがん細胞が自ら産生し、その悪性化を促進することが知られている。しかし、転移経路となる血管に対する役割については、これまで明らかにされていなかった。
血管内皮細胞のTGF-βは接着分子CD44発現を誘導
今回、研究グループは、血管内皮細胞のTGF-βシグナルを遮断する遺伝子改変マウスを用いて、がんの成長や転移にどのような影響があるかを調べた。その結果、血管内皮細胞のTGF-βシグナルを遮断しても、がんの成長そのものには影響を与えなかった。また、血管のTGF-βシグナルを遮断すると、腫瘍が作る血管が「漏れやすい脆弱な血管」となり、出血が多く発生した。漏れやすい血管のため、がん細胞が血液中に流入する頻度が高まり、循環腫瘍細胞(CTC)が増加した。血液中のがん細胞が増えた一方で、肺への転移は大幅に減少した。この結果の原因を探ったところ、血管内皮細胞におけるTGF-βが接着分子「CD44」の発現を誘導していることを発見した。
がん細胞が発現のCD44、転移先の血管へ定着の「足場」として機能
がん細胞はCD44を発現しており、がんの転移を助けることが知られている。今回の研究では、血管内皮細胞のCD44が、がん細胞が転移先の血管に定着するための「足場」として機能していることが明らかになった。
転移臓器の血管内皮細胞へ接着の最初のステップ「TGF-β」阻止で、転移抑制の可能性
がん細胞が転移臓器の血管内皮細胞に接着する最初のステップを妨げることで、がん転移を劇的に抑制できる可能性が示された。今回の成果は、がん転移という難しい課題に対する新たな治療戦略を提案するものだとしている。
従来の治療法では、がん細胞そのものを標的にすることが主流だったが、同研究では、がん細胞を受け入れる「転移先の臓器環境」に注目している。がん細胞ではなく、転移先の血管に存在するTGF-βシグナルやCD44を標的とすることで、転移そのものを効果的に抑制できる可能性が示された。このメカニズムは肺以外の臓器への転移にも応用できる可能性がある。将来的には、転移性がん患者に対する革新的な治療法の基盤となり、より多くの患者の生命予後を改善するだけでなく転移予防薬として応用されることが期待される。今後、臨床応用を目指したさらなる研究が求められている、と研究グループは述べている。
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・東京薬科大学 プレスリリース