オキサリプラチン誘発CIPNに対しPAC1受容体拮抗薬は有効か
富山大学は12月5日、抗がん薬オキサリプラチンによって誘発される末梢神経障害に対する治療薬・予防薬候補の開発に成功したと発表した。この研究は、同大学術研究部工学系生体情報薬理学研究室の髙﨑一朗准教授、同大工学系生体機能性分子工学研究室の豊岡尚樹教授、岡田卓哉准教授、理学系の中町智哉講師と鹿児島大学との共同研究によるもの。研究成果は、「The Journal of Pain」オンライン版に掲載されている。
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誘発性末梢神経障害(Chemotherapy-induced peripheral neuropathy、以下CIPN)は、タキサンまたはプラチナベースの化学療法を受けたがん患者に起こる神経障害の一種である。いったんCIPNを発症すると、その症状は持続し、生活の質が長期にわたって著しく低下することがある。オキサリプラチンは、FOLFOX(フルオロウラシル+葉酸+OXA)およびFOLFOXIRI(FOLFOX+イリノテカン)療法で、主に大腸がんの治療に使われる第3世代のプラチナ含有化学療法剤だ。強力な抗がん作用を示す一方で、オキサリプラチンは患者の80~90%に末梢神経障害を引き起こすことが知られている。オキサリプラチン治療に伴う特徴的なCIPNの症状は、治療開始後数時間または数日以内に現れる手足の冷感異痛症で、患者の10~30%に疼痛や知覚異常などの長期神経障害が見られる。このような急性または慢性神経障害では、オキサリプラチンの用量を減らすか中止する必要がある場合があり、その結果、抗がん療法の有効性を低下させる用量制限性の有害事象が発生する可能性がある。現在のところ、CIPN発症の詳細なメカニズムは完全に明らかになっておらず、またCIPNを治療あるいは予防する医薬品も見つかっていない。
研究グループは、これまでに下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(Pituitary adenylate cyclaseactivating polypeptide、 以下 PACAP)がPAC1受容体を介して痛みの伝達に重要な役割を果たしていることを明らかにしてきており、さらにはPAC1受容体に特異的な低分子拮抗薬(PA-8)の開発にも成功している。そこで今回の研究ではオキサリプラチン誘発のCIPNにPACAP-PAC1受容体シグナルが関与するのかどうか、拮抗薬PA-8はCIPNの治療・予防において有効なのかどうかを検討した。
オキサリプラチン投与・冷アロディニア反応を誘発したマウスでPACAP発現上昇
マウスにオキサリプラチンを投与し、足の裏へのアセトン付加による冷刺激を与えたところ、オキサリプラチンを投与していないマウスと比較して、足を振る・舐めるなどの過敏な応答が増加し、冷アロディニア反応を誘発した。オキサリプラチンを投与したマウスの後根神経節ではPACAPの発現が上昇し、主に小型の神経細胞で発現上昇していることがわかった。一方、PACAPの遺伝子を欠損したマウスでは冷アロディニアを発症しなかった。
PA-8投与で冷アロディニア抑制、オキサリプラチン投与前のPA-8投与で発症抑制
PAC1受容体低分子拮抗薬PA-8をマウスの脊髄くも膜下腔内に投与したところ、オキサリプラチン誘発冷アロディニアは有意に抑制された。これらのことから、一次感覚神経で産生されたPACAPが脊髄PAC1受容体を介して冷アロディニアに関与していることが明らかになった。
PA-8の医薬品としての有用性を明らかにするため、全身投与(腹腔内投与)を行ったところ、PA-8は発症した冷アロディニアに対し治療効果を示した。さらにはPA-8をオキサリプラチンの投与30分前、あるいは30分前に加えオキサリプラチンの投与後に2回投与したところ、冷アロディニアの発症を抑制することが明らかになった。
「研究の成果から、抗がん薬オキサリプラチンによって発症する冷アロディニアにPACAP-PAC1受容体が関与することが明らかとなり、PA-8は治療効果だけでなく予防効果も示すことがわかった。その有効性を今後は臨床試験において実証していきたい」と、研究グループは述べている。
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