機械的かゆみ過敏に対するJAK阻害薬の治療効果をドライスキン病態マウスで検証
順天堂大学は12月3日、かゆみを伴う疾患に共通した病態である「ドライスキン」状態のマウスを用いて、アトピー性皮膚炎の治療薬であるヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬に、機械的かゆみ過敏の即時的な治療効果があることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科 環境医学研究所・順天堂かゆみ研究センターの豊澤優衣大学院生、古宮栄利子准教授(薬学部兼任)、髙森建二特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Dermatological Science」オンライン版に掲載されている。
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JAK阻害薬は、2020年以降に使用が開始された比較的新しいアトピー性皮膚炎の薬だ。JAK阻害薬を服用した患者の中には炎症にはまだ効果が見られないような服用初期において、かゆみが先に治まった例が多く報告されている。しかし、動物モデルではJAK阻害薬はアトピー性皮膚炎の炎症とかゆみの両方に効果があるものの、一定期間連続的に投与した場合でしか効果が知られていなかった。
一方、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患では発症初期から、健康な人が何も感じないような弱い機械刺激でかゆみが引き起こされる「機械的かゆみ過敏」と呼ばれる現象が起こりやすく、これにより患部を掻き崩すことが、炎症やかゆみを悪化させる引き金となっていると言われている。
そこで研究グループは今回、アトピー性皮膚炎などのかゆみの形成に深い関与が知られるドライスキンの病態マウスを用いて、機械的かゆみ過敏に対するJAK阻害薬の治療効果とその機序を調べた。
JAK阻害薬単回投与30分でモデルマウスの病態が改善、JAK1阻害薬が最も効果大
研究では、アセトン-エーテル混合溶液と水を1日2回、6日間にわたって反復塗布することによりドライスキンモデルを作製し、7日目に械的かゆみ過敏が起きていることを確認した。このマウスに各種JAK阻害薬(JAK1/2阻害薬デルゴシチニブ、JAK1選択的阻害薬アブロシチニブ、JAK2選択的阻害薬AZ960)を飲ませたところ、上記全てのJAK阻害薬が、単回投与で投与30分後すぐに、目に見える炎症の変化を起こすことなく機械的かゆみ過敏を抑制した。また、JAK1選択的阻害薬とJAK2選択的阻害薬の効果を比較したところ、JAK1阻害薬の方がより機械的かゆみ過敏を抑制することが判明した。
JAK阻害薬は2型サイトカインによる機械的かゆみ過敏にも即時的な効果示す
この結果を受け、最も効き目があったJAK1選択薬について機械的かゆみ過敏を抑制する機序を調べた。JAK阻害薬の標的であるJAKは、さまざまなサイトカインが作用を発揮する際に重要な役割を担っている。このことから今回は、サイトカインの中でもかゆみを直接誘発することが報告されているインターロイキン(IL)-4、IL-13、TSLPといった2型サイトカインに着目し、さらなる解析を行った。
低用量のIL-4、IL-13、TSLPを無処置マウスの皮膚に注射したところ、それぞれ目立った炎症を起こすことなく機械的かゆみ過敏を引き起こしたが、その全てがJAK1選択的阻害薬の単回投与によって抑制されることがわかった。さらにドライスキンモデルマウスの皮膚では、無処置や水のみを処置したマウスの皮膚と比べTSLPがはっきりと増加し、IL-4やIL-13についても増加傾向にあることがわかった。また、ドライスキンモデルマウスの皮膚では、JAK1やJAK2といったJAKが、末梢神経に存在していることが示唆された。
以上の実験結果から、各種JAK阻害剤は機械的かゆみ過敏の即時的な治療効果を有していることが明らかになったとともに、JAK1選択的阻害薬は、皮膚中の末梢神経に存在しているJAKに作用することで、IL-4、IL-13、TSLPといった2型サイトカインによるかゆみ過敏誘発作用を抑制することにより、ドライスキンモデルマウスの機械的かゆみ過敏を即時的に抑制している可能性が示された。
ドライスキン病態のかゆみに対する、より有効な治療法の確立を目指す
今回の研究により、アトピー性皮膚炎などの病態形成に重要なドライスキンのモデルマウスにおいて、各種JAK阻害薬が目立った炎症への変化を示さずに、単回投与で機械的かゆみ過敏を抑制することが発見されたとともに、JAK1選択的阻害薬を用いて、その機械的かゆみ過敏抑制機序についても解明された。さらなる解析が必要だが、同結果からJAK阻害薬が炎症抑制作用とは別に、2型サイトカインの持つかゆみ過敏誘発作用を直接抑制している可能性が強まった。
今回の結果と過去の報告から、ドライスキンの病態においてIL-4、IL-13、TSLPがどのようにJAKを介して機械的かゆみ過敏を誘発しているかについて、掻き崩しなどによってTSLPがケラチノサイトから分泌され、TSLPが2型自然リンパ球(ILC2)や2型ヘルパーT細胞(Th2)を活性化することで、これらの細胞がIL-4やIL-13を産生し、TSLP、IL-4、IL-13はそれぞれ末梢神経上の受容体に結合することでJAKを活性化してかゆみ過敏を誘発しているのではないかと考えており、今後この仮説の真偽をあきらかにしていく予定だ。これらの解析を介して、アトピー性皮膚炎を含めたドライスキン病態のかゆみに対する、より有効な治療法の確立を目指す、と研究グループは述べている。
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