レカネマブの適応を越えた段階で発見されることが課題
慶應義塾大学は11月21日、認知症患者の「臨床的徴候」(head-turning sign;HTS)と、「News, Consciousness, and Pleasure simple screening questionnaires for dementia;Neucop-Q」と名付けられた簡単な質問セットを用いて、脳内のアルツハイマー病病理を予測できることを発見したと発表した。この研究は、同大病院メモリーセンター長の伊東大介特任教授、済生会横浜市東部病院脳血管神経内科の伊達悠岳氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Alzheimer’s Research & Therapy」オンライン版に掲載されている。
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「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」の予想では、65 歳以上の認知症患者数は、2025年には約675万人(5人に1人以上)になると予測されている。また、認知症患 者1人に対して平均3人の介護人が必要とされ、将来1000万人以上が介護に関わる必要があると予想されている。認知症への対応は、医療、福祉に限られた問題ではなく、日本の行政・政策の重要課題でもある。
アルツハイマー病は、脳内のアミロイドβとそれに続くタウタンパク質の異常な蓄積により引き起こされ、その結果、脳内の神経変性が起こり認知機能障害に至る。2023年末、アルツハイマー病の疾患修飾薬抗アミロイド抗体レカネマブ(製品名:レケンビ)が正式承認されアルツハイマー病の医療はまさに大きな転換期といえる。同薬剤は、日常生活の質の低下を抑制できた初めての抗アミロイド抗体薬であるが、現時点ではその適応は軽度認知障害と軽症アルツハイマー病のみに限定されている。したがって、より早期の認知障害を効率よく発見する必要性がある。
アルツハイマー病の臨床診断は、神経心理検査、頭部MRI検査、脳血流検査などでアルツハイマー病が疑われ、次にアミロイドPET検査や脳脊髄液検査を行うことで確定診断に至る。いずれも、専門医、設備の整った施設を必要とし、高価であったり、侵襲が高かったりするため簡便に診断できるものではない。診断された際には病気がすでに進んでおり、抗アミロイド抗体の適応がなくなってしまったケースが多数報告されている。
認知症サインHTSと簡易質問セットNeucop-Qによるスクリーニングを検討
研究グループは、アルツハイマー病を含むさまざまな認知症の人と健常ボランティアの協力者を対象として、アミロイド/タウPETと血漿中アルツハイマー病バイオマーカーを測定するとともに、認知症サインHTSと簡易質問セットNeucop-Qを検証した。
HTSは、問診の際、振り返り動作(医師の質問に直接答えようとせず、隣にいる家族など同伴者の方を振り返って手助けを求めること) が「ある(positive)」か「ない(negative)」かを確認する。Neucop-Qの質問は「現在、困っていることはありますか? (病識:consciousness;C)」「現在楽しみはありますか?(楽しみ:pleasure;P)」「最近(3か月以内)気になるニュースを挙げて下さい(ニュース:news;N)」を問う。いずれの質問でも、「なし、正しくない回答」をimpaired、「病識がある、具体的な回答ができる」をnormalとした。
「病識なし/楽しみあり/ニュースの記憶なし」血漿BMのリン酸化タウ35.2%上昇
その結果、HTS positive(pos)、C impaired(imp)とN impの対象者は、アミロイドβ病態を示す血漿バイオマーカー(リン酸化タウ)がそれぞれ43.5%、20.9%、32.1%上昇し、強い関連を示した。
また、アミロイドPET陽性を予測するHTS陽性(HTS pos)の特異度と陽性適中率(PPV)が最も高い値を示した(アミロイドPET:それぞれ93.0%と87.0%)。
さらに、病識なし(C imp)とニュースの記憶なし(N imp)は、アミロイドPETが陽性であることの予測において、最も高い陰性的中率を示し(75.0%と72.5%)、楽しみなし(P imp)は、アルツハイマー病以外の認知症(非アルツハイマー病タウ陽性)の予測に高い特異性を示した(85.4%)。
Neucop-Qの質問の組み合わせでは、病識なし、楽しみあり、ニュースの記憶なし(C imp/P nor/N imp)の被験者は、血漿バイオマーカーが35.2%上昇し、アミロイド PET陽性を予測する特異度とPPVが最も高値だった(97.2%と83.3%)。
「病識なし/楽しみあり/ニュースの記憶なし」の83.3%がアミロイドPET陽性でレカネマブ適応
アミロイドPETによるアミロイドβの蓄積の度合いは、HTS pos、C imp、N imp、C imp/P nor/N impではそれぞれ2.88、1.78、2.36、3.06倍増加していた。神経心理検査を加味するとHTS posとC imp/P nor/N impのそれぞれ87%、83.3%がアミロイドPET陽性でレカネマブの適応だった。
介護施設などでも実施可能なスクリーニング法となる可能性
結論として、 HTS pos、C imp、N impの患者はアルツハイマー病およびアルツハイマー病による軽度認知障害が強く疑われ、P impは非アルツハイマー病認知症との関連が判明した。「レカネマブが正式承認され、アルツハイマー病に対する早期発見、早期治療 介入の重要性が認識されている。 極めて簡便な診察法、HTSとNeucop-Qは、医療機関のみならず、介護施設、家庭でも可能でありアルツハイマー病の強力な第一選択スクリーニングとして役立つ可能性がある」と、研究グループは述べている。
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