複数の競技を対象にした、統一的かつ定量的なバランス能力調査はなかった
筑波大学は11月21日、アスリートのバランス能力を、定量的な指標を用いて、競技ごとに両脚型と片脚型に分類する方法を開発し、実際に測定を行った結果、体操競技のアスリートは両脚と片脚の双方の、一方、サッカー競技は片脚のみのバランス能力に優れているなど、競技ごとのバランス特性が明らかになったと発表した。この研究は、同大医学医療系の羽田康司教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Healthcare」に掲載されている。
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アスリートは一般に、競技力を高めるためにバランストレーニングに取り組んでいる。最近の研究では、バランストレーニングは競技力を高めるだけでなく、姿勢、神経や筋肉の促進などを改善し、競技中のけがの予防にもつながる可能性があることが示されてきた。若年者に関しては、バランストレーニングの効果が少なくとも中程度以上であることも示されている。
アスリートにとってバランストレーニングが有益であることは明らかにされているが、具体的なトレーニングメニューの処方にあたっては、個々のアスリートのバランス能力を正確に把握することが重要だ。バランス能力は、競技特性の影響を受ける可能性があるが、これまで、複数のスポーツ競技を対象にした、統一的かつ定量的なバランス能力指標を用いた横断的な調査は行われていない。そこで研究では、バランス能力を、両脚型(修正姿勢安定度評価指標:mIPS)と片脚型(閉眼片脚立位:OLS)に分類できると考え、これらの指標を使用してさまざまな競技のアスリートを対象にバランス能力の調査を実施した。これにより、各競技のバランス特性を明らかにするとともに、バランス能力に関連する因子の抽出を試みた。
アスリート大学生やボートレース訓練生などを対象に調査
つくば市に所在する大学や養成学校を通じて、競技を限定せずに幅広く参加者を募集し、213人(平均年齢22歳、女性割合33%)を対象とした探索的調査を実施した。この中には、対照群(専門的な運動を行っていない大学生:37人)と、体育系運動部に所属するアスリート大学生群(柔道、水泳、サッカー、野球、体操、アメリカンフットボール、馬術、ラクロス、テニスの9競技、合計150人)、ボートレース訓練生群(26人)が含まれている。ただし、ボートレース競技に関しては、以前の研究からmIPSと競技成績に関連があることは明らかにされているため、意図的に参加者を募った。解析精度を保つため、10人以上の対象者が集まった群のみを両脚型か片脚型の分類分析の対象とし、7つの群(対照群、柔道、水泳、サッカー、野球、体操、ボートレース)が該当した。
また、身長、体重、筋力(握力、膝伸展筋力、膝伸展筋持久力、足首の力、足趾のピンチ力)、足の感覚(足首の振動感覚、足裏の表在感覚)、全身の筋肉と脂肪の量、の12因子が、バランス能力に関連する可能性があると考え、研究参加者の基本属性(年齢、性別)で調整した上で、mIPSとOLSのそれぞれとの関連性を調べた。ただし、研究期間中に大規模な感染症の流行が発生し、調査実施に制約が生じたため、12因子すべての評価を完了した研究参加者は、213人中113人だった。
サッカー・柔道・野球は片脚型、全身の筋肉量が多いほどOLSが高い
調査の結果、競技ごとのバランス能力の分類として、両脚型は「ボートレース」、片脚型は「サッカー」「柔道」「野球」、片脚型であるものの両脚型(mIPS)が低いのは「水泳」、両脚かつ片脚型は「体操」であることがわかった。また、身長が低いほどmIPSおよびOLSは高いこと、膝伸展筋力が強く足裏の感覚が鋭敏なほどmIPSが高いこと、全身の筋肉の量が多いほどOLSは高いということが明らかになった。
効果的なバランストレーニング考案に寄与する成果
アスリートのバランス能力を、競技ごとに両脚型と片脚型に分類する概念は以前からあったが、今回の研究はそれを裏付ける結果になった。また、バランス能力の指標として使用した mIPSとOLSについて、膝伸展筋力、足裏の感覚、身長、筋肉の量が関連することも判明した。「これらの知見は、競技ごとの効果的なバランストレーニングを新たに開発するための重要な資料になる」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL