生体外での皮膚常在細菌叢培養、人工的にバランスを維持しての再現は困難だった
東京理科大学は11月20日、皮膚常在細菌叢のバランスを維持したまま培養できる「東京理科大学皮膚常在細菌共培養培地(TSBC)」を開発したと発表した。この研究は、同大大学院創域理工学研究科生命生物科学専攻の山元郁弥氏(2024年度修士課程2年)、同大大学創域理工学部生命生物科学科の倉持幸司教授、古山祐貴助教の研究グループによるもの。研究成果は、「Alternatives to Animal Testing and Experimentation」に掲載されている。
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ヒトはさまざまな細菌と共生しており、皮膚にも多様な常在細菌叢が存在する。皮膚常在細菌叢のバランスは人間の健康にとって重要であり、細菌叢の乱れはアトピー性皮膚炎、ニキビ、乾癬などの皮膚疾患と関連していることが知られている。そのため、近年、皮膚常在細菌叢は、皮膚疾患の治療対象として注目されている。皮膚常在細菌叢を理解することは健康と病気の管理において非常に重要だ。しかし、これらのバランスを維持したまま各細菌叢を培養するのは非常に難しいことが課題であり、皮膚に似せた環境を人工的に再現するのは困難だった。
最近の研究では、培養に依存しないメタゲノム解析により、健康な人と皮膚疾患患者の皮膚常在細菌叢の違いが次々と報告されている。しかし、メタゲノム解析では存在する細菌の比率を特定できるが、細菌の相互作用の根底にある分子メカニズムや宿主に対する細菌代謝産物の影響を調べるには、培養を通じて詳細に検討する必要がある。
研究グループは、ヒトの皮膚常在菌に関する研究を行っており、環境負荷が低い化粧品原料や食品添加物への応用が期待できる成果などを見出してきた。今回は、ヒトの皮膚常在細菌叢をin vitro(生体外)で再現することを目的として研究を遂行し、複数の細菌を複合培養する際の培養条件を検討した。
代表的な皮膚常在菌4種の組成を再現できる培地「TSBC」を開発
はじめに、日本人の前額部の皮膚細菌叢を調べた先行研究から、代表的な皮膚常在菌としてStaphylococcus epidermidis(表皮ブドウ球菌)、S. capitis、Cutibacterium acnes(アクネ菌)、Corynebacterium tuberculostearicumを選択した。これら4種を混合して、GAM寒天培地で複合培養した。7日後には、S. epidermidisが全体の約50%、S. capitisが約40%、C. acnesが約6%を占めていることが確認され、Staphylococcus属が過剰に増殖したことがわかった。そこで、よりこれら4種類の細菌の複合培養に適した培地組成の検討を行うこととした。そのために、20倍希釈のGAM、人工皮脂、HaCaT細胞、HaCaT細胞培養上清を混合した特殊な培地「東京理科大学皮膚常在細菌共培養培地(TSBC)」を作製した。この培地で4種類の細菌を複合培養したところ、7日後にはC. acnesが約55%、Staphylococcus属の組成が10~20%であることが明らかになった。C. acnesのコロニー形成単位(CFU)は約45倍に増加しており、GAM条件下での数値と同等であったが、S. epidermidisとS. capitisのCFUの増加率はGAM条件下と比較すると大きく低下していた。これらの結果は、TSBCではStaphylococcus属の増殖が抑制され、C. acnesの増殖は影響を受けなかったことを示している。
最後に、S. capitisの代わりに病原性皮膚細菌であるS. aureus(黄色ブドウ球菌)を用いてTSBCで複合培養を行った。その結果、S. aureusを入れた場合にも4種の細菌がバランスよく増殖することがわかった。この結果は、TSBCによる培養がS. aureusの増殖割合の管理にも効果的に使用できることを示している。
化粧品や皮膚疾患治療薬の研究開発への応用に期待
同研究を主導した古山助教は、「皮膚常在細菌叢の研究は培養法によらないメタゲノム解析、もしくは純粋培養による個々の細菌の解析がメインである。しかしながら、実際の皮膚環境では、複数の細菌が相互作用しているため、その相互作用関係を再現したモデル培養系が必要であると考えた。本研究成果により、ヒトの皮膚状態に影響を与える皮膚常在細菌の生態に関する詳細な解析が可能になるので、化粧品や皮膚疾患治療薬の研究開発への応用が期待される」と、コメントしている。
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