高血圧高齢者の入浴時事故リスク、正常血圧者の3~4倍
九州大学は11月19日、温泉施設宿泊客に対する、夜間の温泉利用と血圧変化に関する検討結果を発表した。この研究は、同大病院別府病院内科の山崎聡講師(現在:聖マリア病院血液内科主任医長)らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されている。
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温泉利用は民間療法の一つとしてさまざまな疾患の治療に利用されてきており、心疾患への影響も報告されている。九州大学病院別府病院内科の前田豊樹准教授(当時)らが、『アンケートによる65歳以上の別府市民の温泉利用状況と数々の疾患の既往歴との関連の調査』を施行し、温泉利用による複数の疾患の有病率の低下効果を報告した。その後、山崎聡講師(当時)らが、データの再解析を行った結果、高血圧の既往の少なさに「夜間の温泉入浴」が関連していたことが判明した。
温泉入浴により血圧が低下することは知られているが、必ずしも温泉利用客が入浴前後で血圧測定をしていないという現状がある。一方、収縮期血圧160mmHg以上または拡張期血圧100mmHg以上の高齢者では、入浴時の事故の危険性が正常血圧の高齢者の3~4倍であることが報告されている。そこで今回の研究では、別府市内の温泉施設における入浴前の血圧測定を恒常化し、収縮期血圧160mmHg以上または拡張期血圧100mmHg以上の温泉客による事故を未然に防ぐことを目指した。さらに、温泉入浴できなかった血圧コントロール不良の温泉客に対しては、希望者には九州大学病院別府病院での「高血圧の温泉療法プログラム」に参加し、安全な温泉利用と高血圧をはじめとする生活習慣病の早期発見と早期治療につながるよう温泉施設と九州大学病院別府病院との相互協力体制の確立を試みた。また、夜間の温泉入浴に関するモバイルアプリと紙アンケートの使用割合を前向きに評価した。
夜間の温泉入浴に関するアプリと紙アンケート使用割合を前向きに評価
今回の研究では、別府市内の温泉施設にて、夜間の温泉入浴に関するモバイルアプリと紙アンケートの使用割合を前向きに評価。別府市14施設のボランティア1,116人(モバイルアプリ562人、紙アンケート556人)が参加した。65歳以上の回答者477人中474人(99.3%)が紙アンケートを使用した。
夜間温泉入浴前後の収縮期と拡張期血圧、65歳以上で減少
65歳以上の回答者の温泉利用後の収縮期および拡張期血圧の低下割合は、65歳未満の回答者よりも有意に大きかった(p<0.001)。多変量解析で夜間の温泉入浴前後の血圧低下割合への影響を確認したところ、年齢65歳以上、投薬中の高血圧、不整脈、鬱病、塩化物泉の利用が独立して有意な相関が認められた(p<0.001)。
夜間温泉利用と高齢者の睡眠の質検討P2試験も実施
九州大学病院別府病院で、65歳以上の夜間の温泉利用者の睡眠の質と心理社会的状況を検討する、「夜間の温泉利用と高齢者の睡眠の質に関する検討」臨床第2相試験が実施された。目的は高血圧発症の抑制に有効な夜間の温泉利用により、有効な睡眠の質向上を促進する診療プログラムを検証することである。65歳以上の本態性高血圧患者を対象に、有害事象、副作用を集計した。試験結果は現在、論文投稿中だとしている。
また、令和6年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)「温泉利用による健康増進効果及び標準的なプログラムの開発に資する研究」が採択された。同研究班の目的は、温泉療法の生活習慣病およびロコモティブシンドロームの治療および予防に対するエビデンスをとりまとめ、温泉療法を指導する温泉療法医の教育に活かすとともに、エビデンスに基づいた標準的なプログラム(温泉療養、温泉利用プログラム等)を開発することである。具体的には高血圧を含む7疾患に対し、システマティックレビューを施行し、温泉療法医が温泉療法指示書を作成する際に参考となるガイドライン作成、総説英文論文を海外誌に公開、温泉療法指示書の電子化、前向き観察研究による温泉治療の「見える化」を目指している、と研究グループは述べている。
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・九州大学 プレスリリース