完全切除が困難な頭蓋咽頭腫、発生・進展の分子メカニズムは未解明だった
千葉大学は11月18日、頭蓋咽頭腫の2つの主要なサブタイプであるエナメル上皮腫型(ACP)および扁平上皮乳頭型(PCP)について、単一細胞RNA解析を用いて腫瘍の細胞構成、多様性および細胞間の相互作用を詳細に解析したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院の松田達磨医師、大学院医学研究院の樋口佳則教授、災害治療学研究所の河野貴史特任助教、田中知明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。
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頭蓋咽頭腫は脳下垂体領域に発生する良性腫瘍で、原発性脳腫瘍の約3%を占めるまれな腫瘍である。毎年人口100万人に約0.5~2人が発症するとされ、その30~50%の症例が青年期に発生する。国内では年間約700人が診断されている。重要な神経や血管に挟まれて成長するため視力障害や内分泌障害を引き起こす可能性があるが、その解剖学的位置のため、手術による完全切除が最も困難な脳腫瘍の一つである。治療薬の開発が望まれるが、そのためにはまず、この腫瘍がどのような分子メカニズムで発生・進展するのかを解明する必要がある。
患者10例の単一細胞RNA解析実施、遺伝子発現パターンによる腫瘍細胞の分類法確立
個々の細胞の特徴や状態を詳しく知るために、今回の研究では、10例の頭蓋咽頭腫患者の検体を用い単一細胞RNA解析を実施した。その結果、いくつかの重要な知見を得ることに成功した。
まず、ACPとPCPそれぞれについて、腫瘍を構成する細胞の種類や分布を詳細に示した包括的な細胞地図(細胞アトラス)を世界で初めて作成し、この希少腫瘍の全体像を捉えることに成功した。
次に、腫瘍細胞の新しい分類法を確立した。腫瘍細胞を遺伝子発現パターンに基づいて新たに分類し、それぞれのサブタイプ(種類)が持つ特徴的な分子メカニズムを解明したことにより、各タイプに応じた効果的な治療法開発への重要な手がかりとなると考えられる。
それぞれの腫瘍細胞と免疫細胞の細かい相互作用の仕組みが明らかに
また、腫瘍に存在する免疫細胞(腫瘍関連マクロファージ)には複数の種類があり、それらの比率が患者の症状と密接に関連していることも新たに発見した。この発見は、症状の予測や治療方針の決定に役立つ可能性がある。
さらに、腫瘍微小環境を解明した。腫瘍細胞と免疫細胞がどのように影響を与え合っているかを示す、細かい相互作用の仕組みを明らかにし、この知見は、腫瘍の進展メカニズムの理解を深め、新たな治療標的の発見につながることが期待される。
今回の研究の成果は、腫瘍形成と進行の細胞・分子レベルの理解を大きく進展させ、将来の治療法開発に貢献することが期待される。「腫瘍微小環境と臨床症状の関連性解明や、CD44-SPP1細胞間情報伝達経路や、ミッドカイン(MDK)を介した細胞間ネットワークは分子標的薬の開発に寄与する可能性がある」と、研究グループは述べている。
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