力触覚技術の応用により膠芽腫などを判別するためには?
慶應義塾大学は11月11日、力触覚技術を搭載した鑷子型デバイス(以下、力触覚鑷子)を開発し、硬さによって正常脳組織と脳腫瘍組織を判別する可能性を動物実験で実証したと発表した。この研究は、同大医学部脳神経外科学教室の佐々木光客員教授(東京歯科大学市川総合病院脳神経外科教授)、江﨑雄仁研究員、柴尾俊輔共同研究員(獨協医科大学脳神経外科講師)らと、神奈川県立産業技術総合研究所の大西公平研究顧問(慶應義塾大学ハプティクス研究センター長)、下野誠通グループリーダー(横浜国立大学工学研究院准教授)、松永卓也研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
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力触覚技術とは、実際の触覚を増幅・伝達・記録・再現することができ、物体の物理的特性を定量化できる技術である。脳腫瘍摘出術には繊細な力加減と精密な微細動作が要求され、また膠芽腫のように腫瘍と正常脳の境界部分が不明瞭な場合は熟練した技術と手術経験が必要だ。一方で、大腸がんなどのがん種において、腫瘍の硬さは病理組織所見や分子学的特徴との関連性が示唆されており、診断のバイオマーカーとして、あるいは、がんの生物学的特性や術後の有害事象の予測への応用が検討されている。力触覚技術を搭載した手術用鑷子が実用化されれば、脳腫瘍摘出術における安全性の向上と技術の均てん化、また硬さからの脳組織の特徴判別が可能となることが期待される。
モデルマウスの脳腫瘍で検証、硬さが組織学的な違いと関係する可能性も示唆
研究グループは、ヌードマウス5匹に1匹あたり3種類の膠芽腫株(SF126,U87,U251)または2種類の悪性髄膜腫株(IOMM-Lee, HKBMM)のいずれか1種をそれぞれ頭蓋内に移植し全25匹の脳腫瘍モデルマウスを作成した。腫瘍増大後に脳を摘出し、力触覚鑷子を固定し、自動で鑷子間距離を狭めていく中で生じる反力(硬さ:N/m)を正常脳と腫腫瘍で測定した。
その結果、5種類全ての脳腫瘍組織は、正常脳組織よりも硬いことが示された(p<0.001)。膠芽腫間では統計学的な有意差は見られなかった(p=0.468)。一方、悪性髄膜腫間においてはIOMM-LeeがHKBMMよりも硬いことが統計学的に示された(p=0.032)。組織学的に検討したところ、両HKBMMはIOMM-Leeよりも壊死が多く見られた。
今後、ヒト摘出検体での硬さ測定データの蓄積やデバイスの改良を予定
研究グループが開発した力触覚技術を搭載した鑷子型デバイスは、硬さという指標によって、正常脳組織と脳腫瘍組織の判別能を持つことが示唆された。また、鑷子で定量化した硬さが組織学的な違いと関係する可能性も示唆された。「今後はヒトの摘出検体における硬さの測定データの蓄積、小型化や感度の増幅など、ユーザーフレンドリーな鑷子型デバイスへの改良などを進めていく予定だ」と、研究グループは述べている。
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