ある程度の時間経過後も安全に血管再開通と期待の新規薬剤
東北大学は11月11日、最終未発症確認時刻から12時間以内で、かつ再開通療法を受けられなかった脳梗塞患者90人を対象に、新たな治療薬TMS-007(JX10)を投与する臨床試験を、株式会社ティムスを治験依頼者として東北大学病院を含む全国41施設で実施した結果を発表した。この研究は、同大大学院医工学研究科の新妻邦泰教授、同大学院医学系研究科の冨永悌二教授(東北大学総長)、株式会社ティムスの西村直子博士、ティムス取締役会長兼東京農工大学大学院農学研究院の蓮見惠司教授(現農学府特任教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stroke」に掲載されている。
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医療技術の発達により、脳梗塞の超急性期に詰まった血管を薬剤やカテーテルで再開通させる再開通療法が普及してきた。しかし、脳や脳血管は傷害されるまでの時間が短く、傷害されている部分を再開通させると出血などが生じる危険性が高まることが問題になっている。その結果、再開通療法を受けられる患者は全体の10〜20%程度に留まり、多くの脳梗塞患者が後遺症による身体障害に悩んでいる。
TMS-007(JX10)は薬理学的な作用から出血の危険性が低いと考えられ、ある程度の時間が経過した後でも安全に血管を再開通させる可能性が期待されている新規薬剤。研究グループは、これまで本薬剤の共同開発にあたってきた。
再開通療法が未発症12時間後より遅延した患者90人対象、プラセボ対照二重盲検比較試験
2018年2月から、脳梗塞患者を対象にTMS-007(JX10)の臨床試験を、株式会社ティムスを治験依頼者として東北大学病院や大崎市民病院、仙石病院、総合南東北病院等を含む全国41施設で実施した。同試験では、最終未発症確認時刻(最後に、いつも通りであることが確認されていた時刻)から12時間以内に、既存の薬剤やカテーテルによる再開通療法を受けられなかった患者90人を対象に、TMS-007(JX10)を静脈内に点滴単回投与した際の安全性および有効性について、プラセボ対照二重盲検比較試験を行った。
TMS-007(JX10)投与で閉塞血管の再開通促進
その結果、主要評価項目であるTMS-007(JX10)投与後24時間以内のNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコアが4点以上悪化した症候性頭蓋内出血の発生率は、TMS-007(JX10)群で0%(0/52; 95%信頼区間0.0-5.6)、プラセボ(偽薬)群では2.6%(1/38; 0.1-13.8)であった(p=0.42)。ベースラインのNIHSSスコアの中央値(範囲)はTMS-007(JX10)群で8(6-21)、プラセボ群で8(6-22)と、明らかな差はなかった。TMS-007(JX10)投与による症候性頭蓋内出血の増加はなく、安全性が示された。
副次評価項目については、90日目のmodified Rankin Scale(神経運動機能に異常を来す疾患の重症度を評価するための尺度)スコアが0(障害が全くない)または1(症候はあっても明らかな障害はない)である患者は、TMS-007(JX10)投与群で40.4%(21/52)であったのに対し、プラセボ群では18.4%(7/38)であり、統計学的有意差(調整オッズ比3.34; 95%信頼区間1.11-10.07、p=0.03、ロジスティック回帰解析)をもってTMS-007(JX10)群で改善が見られ、TMS-007(JX10)の有効性が示された。
また、ベースラインの段階で主要な血管が閉塞していた39人の、24時間後の血管開存率は、TMS-007(JX10)群では58.3%(14/24)と改善したのに対し、プラセボ群では26.7%(4/15)であり(オッズ比4.23; 95%信頼区間0.99-18.07)、TMS-007(JX10)投与により閉塞血管の再開通が促進することが示された。
出血の可能性「低」、医療資源少ない地域でも有効活用の可能性
同研究結果から、TMS-007(JX10)が急性期脳梗塞治療の手段として安全かつ有効であることが示唆される。また、出血が生じる可能性が低いことから、医療資源が少ない地域でも有効に活用できる可能性も示唆される。ただし、今回は日本の41施設で90人の患者を対象に行われた治験であり、今後更なる効果を確認するためには、より大きな研究が必要であるとしている。TMS-007(JX10)の導出先であるJi Xing(11月にCORXELに社名変更予定)は現在、世界規模の臨床試験を計画しており、研究グループは日本国内治験を担当する株式会社ティムスと協力して、実用化に向けた研究を進めている、と研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース