新規RET阻害薬のセルペルカチニブ、「初期治療抵抗性」による耐性化が課題
京都府立医科大学は11月8日、日本人の肺がんの約1~2%を占めるRET融合遺伝子を有する肺がんにおける、新規RET阻害薬セルペルカチニブに対する初期治療抵抗性因子を解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科呼吸器内科学の山田忠明准教授、片山勇輝助教、髙山浩一教授、創薬医学の酒井敏行特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical Cancer Research」にオンライン掲載されている。
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RET融合遺伝子に異常のある肺がんは、国内の肺がん患者全体の約1~2%を占める。このRETタンパク質を標的とした「がん分子標的薬」のRET阻害薬はRET融合タンパク質に結合し、細胞の増殖を抑える。新規RET阻害薬のセルペルカチニブは、第1/2相臨床試験においてRET融合遺伝子陽性肺がんに対して良好な治療成績を示し、現在、日本において臨床で使用されている。しかし、これらのRET阻害薬でしばらく治療していると耐性化のため効かなくなってくる。さらに、薬に耐性化したがんが再発した時点では、さまざまな耐性の原因が影響するため、耐性の克服は極めて困難であることがわかっている。このような現状を打破するため、今回の研究では、RET阻害薬による治療の開始後に生き残るわずかな細胞が生存する原因である「初期治療抵抗性」を明らかにすることを目的に研究を行った。
RET阻害薬セルペルカチニブとアファチニブ併用、がん細胞の増殖・生存を強く抑制
RET融合遺伝子陽性肺がん細胞に新規RET阻害薬セルペルカチニブを投与しても、一部のがん細胞が「初期治療抵抗性」により生き残る。この初期治療抵抗性を克服するため、汎HER阻害薬アファチニブを初期から併用する実験を行ったところ、がん細胞の増殖や生存をより強く抑制することがわかった。
HER阻害薬の併用効果、YAPタンパク質を高発現するRET肺がんで高い
さらに、細胞質内に転写因子YAPタンパク質を高発現するRET肺がん細胞では汎HER阻害薬の併用治療が強く細胞増殖を抑制する一方で、YAPタンパク質を発現しないRET肺がん細胞では汎HER阻害薬の併用治療効果は高くないことがわかった。加えて、RET肺がん細胞を用いた動物モデルの実験においても、RET阻害薬と汎HER阻害薬の併用治療は強い抗腫瘍効果を示し、腫瘍の増大を有意に抑制した。
YAPタンパク質高発現のRET肺がん患者、RET阻害薬の効果が乏しい
続いて、RET融合遺伝子陽性肺がん患者の生検検体や臨床データを使った解析を行い、細胞質内のYAPタンパク質を強く発現するRET肺がん患者ではRET阻害薬の治療効果が乏しく、生存期間も短い傾向がみられることを確認した。
以上の研究結果から、YAPタンパク質が高発現しているRET融合遺伝子陽性肺がんでは、RET阻害薬に対して初期治療抵抗性メカニズムとしてHER3が活性化することで一部の細胞が生き残ってしまうが、治療初期からRET阻害薬と汎HER阻害薬を併用することで、これらの抵抗性を克服しがん細胞の増殖を強く抑制することを明らかにした。
RET阻害薬の効きにくさをYAPタンパク質発現で判断
今回の研究の成果は、難治性腫瘍の代表である肺がんのうち、RET融合遺伝子を有する肺がん患者の中で、YAPタンパク質の発現の強さでRET阻害薬が効きにくい者を判断できることを示した。さらに、細胞質内のYAPタンパク質が高発現しRET阻害薬が効きにくいRET肺がんでは、RET阻害薬と汎HER阻害薬の併用治療が、がんの「初期治療抵抗性」を克服し、再発までの期間を大幅に伸ばせる有効な治療法であることが明らかになった。「この治療法が実際の患者の治療へと発展すれば、患者の治療成績を向上させると同時に、肺がんの個別化医療の推進に大きく貢献することが期待できる」と、研究グループは述べている。
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