画像下治療、機器を大型化せず遠隔で変更・位置決めを可能にするには?
名古屋大学は11月8日、MRI・CT内やその周辺で針等の医療器具や検査用センサを遠隔操作により姿勢変更・位置決め可能な、世界初の球状歯車型空圧モータを開発したと発表した。この研究は、同大大学院工学研究科の部矢明准教授、博士前期課程学生の森田希氏、井上剛志教授の研究グループによるもの。研究成果は、第33 回日本コンピュータ外科学会大会で発表された。
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MRI・CT画像を見ながら術者が病変に針を刺すのみで肝・腎・肺などのがん治療や病変採取等を行う画像下治療は、患者へのダメージが小さいため、高齢化も相まってニーズが高まっている。しかし、人が入ったMRI・CT内は狭小空間となるため、手技の空間が狭く、アプローチが困難な場合がある。また、MRIは強磁場による金属の吸引事故の危険性があり、CTはX線により患者だけでなく医師も被ばくする。加えて、MRI・CTの撮像面に金属が存在する場合、ノイズにより画像信号が欠損(金属アーチファクト)し、画像診断が困難となる問題がある。これらの背景から、術者が手術室の外から遠隔操作する非金属性手術支援ロボットが開発されている。しかし、従来ロボットにおける医療器具の姿勢変更機構は、複数の空圧アクチュエータを組み合わせて構成されており、構造の大型化が課題となる。また、姿勢測定のためにはアクチュエータの数だけのセンサが必要となり、姿勢測定機構の小型化にも課題が残っている。
空圧力を駆動源にさまざまな方向へ回転する球状歯車型モータを開発
研究グループは、1台のみでさまざまな方向への回転を実現する球状歯車型空圧モータを開発した。提案モータでは、中心に配置された球状歯車を持つ回転子に対して、直交した2方向からそれぞれ3つの歯が連動して噛み合うことで2軸回転する。この歯の直動運動は空圧シリンダと同じ原理で生み出されており、空気室の加圧により歯が球状歯車の方向へ押し出される。復動ばねを組み込むことで、空気室を開放時にばねの復動力により原点位置へ復帰するため、繰り返し往復動作が可能となっている。このとき、球状歯車に対してヨー・ピッチ回転方向に対して異なる歯車形状を設けることで、2軸回転を実現している。なお、ヨー方向回転時にピッチ方向回転用の歯が従動してヨー方向回転することで、ピッチ方向回転用の歯と球面歯車の噛み合い関係は維持される。ピッチ方向回転時にヨー方向回転用の歯が球状歯車に干渉しない構造のため、2軸同時回転が実現可能となっている。
樹脂のみで製作、別途角度センサを用いず正確な位置決めが可能
この動作原理から、一般的なモータのように鉄などの軟磁性材料や永久磁石・電磁石が必要なく、樹脂のみで製作可能だ。そのため、MRI・CT内部や周辺で動作させた際にも、撮影画像にノイズがなく、画像診断に影響を及ぼさない。
また、回転子の回転角度は、球状歯車に対して歯を押し当てた回数で決定するため、角度センサを用いた姿勢測定機構が別途必要ない。さらに、動作精度は歯車の歯の間隔に依存するため、その間隔を細かく設計することで高精度な回転も期待できる。
提案構造・動作原理により駆動できることを確認するため、提案モータの外側に別途姿勢測定機構を取り付け、動作検証を行った。その結果、3つの歯を連動して押し当てることで、正確に各方向へ回転していることが確認された。
「本技術をMRI・CT 環境で動く遠隔操作ロボットに応用することで、従来機構の小型軽量化と高精度化の実現が期待される」と、研究グループは述べている。
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