CTによる筋肉の解析がどこでも簡便にできるよう開発、医療機器認証取得
国立長寿医療研究センターは11月8日、広範囲の筋肉が映し出される、携帯可能な筋肉専用超音波測定装置が臨床使用可能になったと発表した。この研究は、同研究所ロコモフレイルセンターの松井康素氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されている。
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足腰を丈夫に保つためには、大腿四頭筋の量と質を維持することが大切である。ロコモフレイルセンターでは大腿四頭筋に着目し、そのCT画像を用いて、筋肉が加齢とともに減少する様子や、CT画像と筋力や運動機能との関わりを明らかにする研究を続けてきた。しかし、CTによる筋肉の解析はどこでも簡便にできるものではないため、CTと同じような画像を短時間に映し出すことができる筋肉専用超音波測定装置を研究開発してきた。今回、同装置が臨床使用可能となった。
同装置は、古野電気株式会社(兵庫県西宮市)が開発を手掛けたもの。ロコモフレイルセンターが測定精度や臨床的な意味合いについて有用性を検証するための研究を担い、医療機器の認証前に行われる特定臨床研究を2021年より2年間行った。その結果、測定再現性に優れ、同一断面で撮影したCT画像との相関も大変優れていることが示され、医療機器としても認証された。
さまざまな場所での測定が可能、サルコペニア診断にも期待
近い将来、加齢による筋肉減弱症であるサルコペニアを診断するためにも使用されることが期待されている。
サルコペニアの診断は、現在はDXA(Dual-energy X-ray Absorptiometry)法またはBIA(Bioelectrical Impedance Analysis)法による四肢の筋肉量の測定に加え、握力の測定や歩行速度、椅子からの立ち上がりの能力などを合わせて測定する必要があるが、かかりつけ医などでの診断は必ずしも容易ではないために、日常臨床の中では普及しているとは言い難い状況がある。CTによる疫学研究結果から、加齢により男女ともに大腿四頭筋の断面積は減少し、特にサルコペニア患者では健常者よりかなり小さくなっている。また、DXA法やBIA法で測定される筋肉量の指標となっているSMI(skeletal muscle mass index-骨格筋指数)は日本人を含むアジア人女性では加齢による減少を上手く表すことができていない。さらに、筋肉の量とともに起こる筋肉の質の低下(筋肉内への脂肪の浸潤)については簡単な測定方法も無く、サルコペニア判定としては、現状は使用されてはいない。しかし、同装置は筋肉の質の劣化についても測定可能である。
軽量で手のひらサイズ、約15秒でCT画像に似た広範囲の筋肉描出が可能
同装置は、軽量で手のひらサイズと小型なため、どこでも測定が可能で、太ももの内側から前側、外側へゆっくりとなぞることにより、15秒程度でCT画像に似た広範囲の筋肉の描出ができる。
サルコペニアは、さまざまな高齢者に特有の病気の増悪要因でもあるので、早い時期に同装置を用いてスクリーニング診断をすることが、介護予防の面でとても重要である。加えて、より若い世代も対象とした、スポーツ現場やトレーニングジムなど広い応用範囲が見込まれる。今後はそうしたさまざまなニーズを調査し、普及を進めたいと考えている、と研究グループは述べている。
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・国立長寿医療研究センター プレスリリース